A級戦犯「聴取書綴」
死刑を免れ釈放されていたA級戦犯を対象に行われた聞き取りの記録「聴取書綴」が国立公文書館に所蔵されていた、ということを8月18日の日経新聞朝刊が報じています。国立公文書館のデジタルアーカイブで検索してみるとすでに公開されていることが確認できますが、現時点ではオンラインで画像を閲覧することはできません。
識者コメントは秦郁彦氏。「敗戦から十数年後なので、戦争の実態や諸論評に接して影響されたり、あと知恵も加わってか、概して常識的な感想に落ち着いているが、共通して責任意識が薄い点は気になった」と評しています。「興味深」い発言として2つを名指ししていますが、記事の紹介(「聴取書の抜粋」)によればそれは次のようなもの。
▼大島浩(元駐独大使)
〈三国同盟〉
ひと言にして言えば独の戦力を見そこなったのである。独の力があのようであったとすればもちろん日本は三国同盟を結ぶべきでなかったことは明らかだと思う。
で、ドイツの戦力に関する情報収集に関してもっとも責任を負うべき人物の1人は、この大島浩に他なりません。
▼岡敬純(元海軍省軍務局長)
〈大東亜共栄圏〉
戦後、日本の犠牲において大東亜共栄圏は独立し大東亜戦の目的の一端が達せられたかのごとき説をなす人があるが、これは全く自己満足に過ぎないと思う。独立した諸国で衷心から日本に感謝している国があるかどうか疑問である。
戦犯裁判に限らず死刑を廃止することの意義の一つは、ある程度時間がたってから当事者にこの種の聞き取りをすることを可能にする、と言うことにある。被告人という立場で語られることには意識的・無意識的に保身のための虚偽・歪曲・省略が混じっても当然であるし、自らの行為(ないし不作為)にきちんと向き合うために必要な時間も与えられていない。この聴取書綴りの場合は身内による*1インタビューなので追求が十分でない可能性は高いだろうが。
日中戦争と日本軍の戦争犯罪については、ともに畑俊六の発言が紹介されています。
▼畑俊六(元陸相)
〈日中戦争〉
(満州国の)皇帝まで擁立しておって、蒋(介石)のメンツや中国人の感情を無視してしまい抜き差しならぬ形となる。私の考えでは日支和平の鍵は(中国からの)撤兵問題等ではなく実にこの「満州国承認」の条件にあった。
〈残虐行為〉
今次の大東亜戦争中各地において相当の不法行為や行き過ぎのあったことは認めざるを得ない。
畑俊六は南京事件発生当時は教育総監で、38年2月から松井石根を継ぐ形で中支那派遣軍司令官になっている。「畑俊六日誌」の38年1月29日の項には「支那派遣軍も作戦一段落と共に軍紀風紀漸く頽廃、掠奪、強姦類の誠に忌はしき行為も少からざる様なれば」とあり、陸軍大臣に軍司令官等の更迭を進言しておいたところ自分が松井石根の後任にとの動きがあって面食らった、とある。