『落日燃ゆ』

テレビ朝日開局50周年記念ドラマスペシャル」なんだそうだが、はっきり言っていま再ドラマ化する価値があるとはまったく思えなかった。エンドクレジットが終わるとお決まりの「このドラマはフィクションです」というエクスキューズが出ているけど、フィクションならフィクションで虚構化に際して歴史に対するそれなりのパースペクティヴというものがあってしかるべきだろう(なにしろ数千万人が亡くなった戦争、いまだその体験者が生存している戦争に関わった政治家を主人公としたドラマなのだから)。城山三郎にはそれがあったかもしれないが(それをどう評価するかは別として)、このドラマにはなにもない。盧溝橋事件の勃発を告げるシーンの後に「またも関東軍によって戦火は拡大したのでした」というナレーションが入るのにはのけぞった。全部関東軍のせいにするつもりかよ! ドラマ部分では廣田と山本五十六が戦線拡大阻止で合意→杉山元が廣田を押し切る→近衛の内地師団増派声明(らしきもの)、だけで日中戦争全面化の描写はお終い。「多田駿マニア」の maroon_lance さんも泣いておられるのではないか。当然、和平交渉の際にむしろ文官の大臣が条件を吊り上げたことはスルー。
城山三郎の廣田観を特徴づけるポイントと言える「自ら計らわず」は本人ではなく、吉田茂佐藤賢了の口から語られているが、はっきり言ってこのコンセプトで廣田を好意的に描こうとするのがもはや時代錯誤。平凡な外交官ならともかく仮にも外務大臣、総理大臣にまでなった人間が「自ら計らわず」では困るわけで、こういうロジックで廣田を弁護したいならそれはこっそりやられるべきことであって、「テレビ朝日開局50周年記念ドラマスペシャル」なんぞでやることではない。
唯一の見どころは吉田茂津川雅彦が演じたことか。「プライド」がないね(笑)


追記:この脚本だと廣田の妻がなぜあのタイミングで自殺したのかさっぱりわからない、と思ったんですが、ご覧になった方、いかがですかね。