二重被爆の体験記、文庫化

広島と長崎で二度被爆したという体験を持つ山口彊氏が07年に講談社から出した回想記『生かされている命』が、朝日文庫より『ヒロシマナガサキ 二重被爆』と題して刊行されたとのこと。7月7日の朝日新聞(大阪本社)朝刊より。
これを伝える記事の隣に「被爆は終わらない」と題する、広島市の大規模健康意識調査の中間報告についての記事が掲載されている。ネットにあった読売新聞の記事によれば概要は次の通り。

(前略)
 抑うつ傾向や心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状の傾向は、直接被爆者が最も大きかった。国が指定する黒い雨の降雨地域以外で、少量の黒い雨を浴びたとされる人らにも、被爆者と同程度の影響がみられた。


 また、被爆による直接体験以上に、病気への不安や、差別、偏見を感じた経験が精神面に強い影響を及ぼしていることもわかった。
(後略)
(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090707-OYT1T00108.htm)

中国新聞の記事より。

(前略)
 調査は昨年6月末から11月末に市内と周辺で実施。調査用紙を郵送した3万6614人のうち、2万7147人が回答した。PTSDの度合いは(1)体験を思い出すと、その時の気持ちがぶり返す(2)体験を思い出させるものには近寄らない―などに該当するかどうかを確認し、値を出す「IES―R」という専門手法で分析した。


 その結果、被爆も黒い雨も体験していない人との比較で、直接被爆者は12・798▽黒い雨の「大雨地域」にいた人は6・524▽「小雨地域」にいた人は9・693―それぞれ数値が高かった。分析した東京都精神医学総合研究所の飛鳥井望所長代行は「阪神大震災や、JR尼崎脱線事故の被災者の値と匹敵する」とした。

これに加えて朝日の記事では「放射能を含む「黒い雨」を浴びたのに被爆者と認定されていない人は、直接被爆者以上に精神的健康状態が低かった」という重大な結果(最終的な解析結果ではないので留保は必要なものの)が指摘されている。被爆者認定が援護法による経済的な援護にとどまらない意味をもつ(らしい)ことがわかる。
それにしてもこの大規模健康意識調査が初めて行われたものだ、とは。被爆をはじめとする戦争の心理的影響に対してこの社会がいかに関心を払ってこなかったかを改めて痛感させられる(被爆者に対する精神医学的研究の乏しさについては、中澤正夫、『ヒバクシャの心の傷を追って』、岩波書店、の巻末に「被爆者の「心の被害研究」歴史と解説」と題するレビューがある)。戦争被害を「死者の数」に還元しその死者数推定の「正確さ」に拘泥する態度は、もちろんこうした無関心のうえに立脚しているわけである。原爆死没者名簿に現在も新たな名前が記載されることについて、アメリカ人を一括りにして「俺がアメリカ人なら激怒する」(ただし「見出しは(ひどい)演出」だそうだが)と奇怪なことを言ってる人がいるけど、これはもちろん旧日本軍の戦争犯罪に関する言説への彼の態度を投影したものに過ぎない。