「日中戦争の国際共同研究」

先日報告書が公表された、国家主導の「日中歴史共同研究」とは別に、日中戦争に関するアカデミズムベースの国際共同研究も存在しています。2002年と2004年に日中台米の研究者が参加して行われた国際シンポジウムが書籍化されています。

この他『日中戦争の国際共同研究 3 戦時期、中国における社会・文化的変容(仮題)』が予告されていましたが、いまのところ刊行されていないようです。
私がもっているのは『日中戦争の軍事的展開』だけなのですが、この巻の編者2人が「日中歴史共同研究」にも委員および外部執筆者として関わっています。他の執筆者の論文を読んだ印象とあわせ、日本側参加者の政治的な傾向は「日中歴史共同研究」とそう変わらないと思われます。なお中国からは、「日中歴史共同研究」報告書第2部第1章の「満洲事変から日中戦争まで」を担当した臧運祜氏が『日中戦争の軍事的展開』のベースとなった2004年のシンポジウムに参加していた、と「あとがき」に記されています。なお、2回のシンポジウムについてはハーヴァード大のサイトに簡単ながら資料があります。
http://www.fas.harvard.edu/~asiactr/sino-japanese/index.htm


「日中歴史共同研究」の報告書が発表された際には、中国側の研究者が抗日戦における国民党の役割に(以前よりも)高い評価を与えていたといった報道がなされていましたが、06年刊の『日中戦争の軍事的展開』の「まえがき」にもすでに次のような記述があります。

 だが、そうした論争もあったにせよ、より重要なのは、意外なほど、解釈の共通点が見られたことである。例えば、初期の対日抗戦で国民政府軍がよく戦ったことは、日本側から見ても、中国側から見ても、充分に確認された。従来、中国(中華人民共和国)の研究者は国民政府軍の戦闘の実態に批判的で、中共軍の抗戦ぶりを一方的に賛美する傾向が見られたが、蒋介石の戦略方針についての批判は別として、抗戦初期の地方軍を含む国民政府軍の戦意や戦い方に関しては、これを客観的に評価しようという姿勢がかなりはっきりと示された。(……)
 日本人研究者、特に日本史研究者が目を見張ったのは、中国人研究者とりわけ中国史研究者が以前にまして実証的になったことである。かつては紋切り型の公式見解の枠から一歩も出ようとはしないように見えたこともあったが、このシンポジウムでは自前の多様な史料を駆使し、そこから実証的かつ論理的に解釈を導き出そうとする柔軟な研究姿勢が見受けられた。日本の日本史研究者としては、そうした中国の研究成果を充分に取り込んでこなかったことを真摯に反省せねばならなかった。
(v-viページ)

(「実証性」がはらむ、ないしはらみうる問題については別稿にて。)