「日中歴史共同研究」執筆者の「歴史認識」論

1月末に報告書が公表された「日中歴史共同研究」において第2部第2章「日中戦争−日本軍の侵略と中国の抗戦」を担当した(共著)庄司潤一郎・防衛研究所戦史部上席研究官が『防衛研究所紀要』の第4巻第3号(02年3月)に「戦後日本における歴史認識 ―太平洋戦争を中心として―」と題する論文を書いています(リンク先PDF)。論文の目的は次の通り。

そこで本稿では、戦後日本における太平洋戦争に関する歴史認識を、学会、言論界での議論の変遷、太平洋戦争の呼称をめぐる諸問題、歴史認識をめぐる論争の主要な論点、歴代内閣の立場、閣僚の「失言」、「不戦決議」など政治の場における歴史認識、そして以上を踏まえた日本人の複雑な歴史認識の背景について分析を行う。
(100頁)

著者が言うところの「進歩派」の戦争認識(歴史認識)の変化をどのように分析しているか、がなかなか興味深いです。特に近年の変化については、次のように主張されています。

昭和天皇崩御と冷戦の終結(すなわちある意味における「社会主義」の崩壊)は、歴史認識に新たな局面をもたらすにいたった。従来の「マルクス主義史観」の人々が、「戦前日本の侵略性」、特に日本による残虐行為の発掘・糾弾、戦争犯罪の追及、戦後補償、そして昭和天皇の戦争責任究明へと特化していったのである。例えば、1990年代に入って、戦争責任に関する著作の刊行が、それ以前に比べ激増するとともに、分野も多様化しつつある点が指摘されている。
(104頁、原文の注番号を省略)

もちろん冷戦の終結が与えた影響は重大であるわけですが、この論文ではそれ以外の要因(歴史学の方法論にかかわるトレンドであるとか、ジェンダー論的視点の導入など)がまるっきり無視されています。