『昭和陸軍全史1〜3』

第1巻が昨年7月に出て、今年の6月に完結した3巻シリーズ。タイトルに「全史」とあるが、3巻本とはいえなにぶん新書版なので、第1巻は永田鉄山 vs 石原莞爾、第2巻は石原莞爾 vs 武藤章、第3巻は武藤章 vs 田中新一、とそれぞれの時期を代表する軍官僚の戦略構想の対立に焦点をあてた歴史記述になっていて、これらの対立とあまり関わりのない事項についてはほとんど、ないしまったく扱われていない。例えば、本シリーズでは陸軍憲兵の役割だとか捕虜政策の問題点などは基本的にスルー。したがって、「日本はなぜ日中戦争、太平洋戦争へと突入していったのか」以外の問題にこそ関心があるという人にとっては、あまり意味のない本かもしれない。他方で、「それぞれの時期を代表する軍官僚の戦略構想の対立」という観点からの歴史記述によって、昭和最初の20年について一定の見通しを得られるのも確かだろう……というのがとりあえずの読後感。


あとは、海軍についても、近年「海軍反省会」の録音テープのような新資料も発掘されたことだし、同じような取り組みがあってほしいな、と思いますよね。つい先日、笠原十九司さんが平凡社から『海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ』を刊行されていて、まだはじめの方を読んだだけなのですが、「海軍反省会」にも言及されているので、読了したらまたご報告します。