訳の分からん訳注

碧猫さんがこのところホメオパシー陰謀論にどっぷり浸かった陸自の現役一佐の問題をとりあげておられるのはみなさんご存知の通り。
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http://azuryblue.blog72.fc2.com/blog-entry-802.html
http://azuryblue.blog72.fc2.com/blog-entry-809.html
http://azuryblue.blog72.fc2.com/blog-entry-810.html
これらのうち三つ目のエントリで引用されている、問題の一佐の著書を紹介した次のような記述を読んであることを思い出した。

陸上自衛隊1佐、小平学校人事教育部長の池田整治氏は、「もし
各国が同じ装備なら、私は旧(日本)軍も自衛隊も世界最強だと判断
している」と、著書「マインドコントロール」(ビジネス社)の中で
述べています。



その理由のひとつは、将校教育にあるそうです。


> 日本の場合、将校になった時点から師団級の「図上演習」など徹底
> した組織教育によって頭が鍛えられる。
> 対して米国等は各専門職の技術的プロの要請を主題とし、戦術は
> 部隊長になる要員にしか教育しない。
> 結果として、日本は部隊を率いる将校+幹部の戦術能力も群を
> 抜いていると思う。
(本書より抜粋)

これ自体にも「おいおい、戦術だけかよ」と突っ込みたくなるわけだが、思い出したのは南京事件否定論者なのに「東京裁判の事実認定では、南京での大虐殺は場内で行われたとされていた」などと思い込んでいた、あの茂木弘道センセイが翻訳して最近刊行された本、『「太平洋戦争」は無謀な戦争だったのか』(ジェームズ・B. ウッド著、ワック)のこと。SAGE社の出している War in History という雑誌に載った書評によれば、「日本軍がもう少し合理的に戦えば敗戦を遅らせることができ、そうすればアメリカでの厭戦気分の高まりやソ連との対決の激化などをうけて日本にとって有利な講和が可能だった」といったことを主張している本らしい。裏を返せば「日本軍はいろんなミスをしたので負けた」という(分析はともかくとして結論としては)当たり前のことが書いてある本ということになるわけで、なにがうれしくてワックがこんな本を出すのかよくわからないが。本屋でぱらぱらと冒頭部分を流し読みしていると、著者が自分のアプローチの特徴を説明しているところにジョン・ダワー(この本では「ダウアー」と表記されている)の『容赦なき戦争』への言及があるのだが*1、そこに茂木センセが訳注をつけている。ところがこの訳注、「あんたダワーの本を読んだのか?」と言いたくなる代物。ダワーを“残虐行為が自分たちには無縁のものだと思っている”と非難し、右派がしばしば引用するリンドバーグの日記(彼が目撃した、米兵による日本軍将兵への残虐行為を記したもの)を得々として引用している。ところが、『容赦なき戦争』を読んだ方ならご存知のように、ダワーはもちろんリンドバーグの日記を資料として用いて『容赦なき戦争』を書いているのである! つけずもがなの訳注をつけて知的怠慢をさらしてしまうとは、ご苦労なことである。

*1:ちなみにその部分にどうも翻訳の怪しい箇所もある。原文を十分理解せずにとりあえず横のものを縦にしてみた結果、原文とはかけ離れた訳文になってしまいました、的な。