NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか 第4回 開戦・リーダーたちの迷走」

冒頭、「今から70年前の1941年、日本はアメリカとの破局的な戦争、太平洋戦争へと向かいました。当時のリーダーは、アメリカとの圧倒的な国力差という現実を無視して開戦に突き進んだと、考えられてきました」というナレーションでのけぞる。一体いつのはなしだよ、と。今回も取材で新たに発掘した資料は使われているわけだが、開戦経緯についての基本的な描き方は、一般向けに書かれた文献でもとうにポピュラーになっているものと変わらない。というか、「政軍指導者の多くが戦争はできない、したくないと思っていたのに開戦してしまったのは何故か?」という問題意識は、敗戦から間もなく丸山眞男が「軍国支配者の精神構造」などですでに提示しているものだ。テレビ番組、特に地上波の総合で放送する番組の場合、視聴者がその題材についてもっている認識をどう見積もるかはたしかに難しい問題ではあるのだろう。しかし「70年」という節目を意識したシリーズなのだから、もうちょっと高い水準を想定してつくってもよかったんではないだろうか?


日米交渉の最大の焦点の一つが中国からの撤兵であり、つまるところ日中全面戦争という失敗を失敗として認めることができなかったことが対英米戦突入の大きな要因であったことについて。「東条君が言うたのは あれだけの人間を殺してだ そして金も使いだね ただ何も手ぶらで帰ってこいということはだな できないと」(鈴木貞一)。これは日本固有の問題ではないとして、ジョン・ダワーが「この「死者への負債」はあらゆる時代に起きていることです 犠牲者に背を向け「我々は間違えた」とは言えないのです」とコメントしている。しかしそれがもたらす結果を考えるなら、いわゆる「英霊の尊い犠牲を無駄にするな」論を私たちが乗り越えなければならないことは明らかだろう。


その他。近衛・ルーズベルト首脳会談構想について「これは近衛君のやむを得ない時の常とう手段みたいなもんだが、要するに「陛下のお力を借りたい」ということなんです」(木戸幸一)といった発言が紹介されてはいたものの、やはり4回を通して天皇制の問題は極力避けて通ったな、という印象。