「三国人」発言をめぐって

2000年(平成12年)04月27日参議院外交・防衛委員会でのやりとり。首都圏の防災を考える際に一番の危険因子はほかならぬ都知事閣下であらせられる、という件について。強調は引用者。

○佐藤道夫君 私からは、本日御報告のありました違法射撃事案、それからNECの過大請求事案、これにつきましては報告書をつぶさに検討いたしまして後刻またお尋ねをするということで、本日は、何かと先般来問題になっております石原東京都知事三国人発言をめぐる問題につきまして防衛庁長官の御所見を伺いたいと、こう思っております。
 石原知事は、我が国に不法に入国した三国人、外国人というふうに言いかえておりますけれども、これが大震災その他大災害が発生した場合に集団で大変な暴動を起こすおそれがある、大変な騒擾事犯の発生も考えられる、警察の力には限りがある、そこで自衛隊もこのために十分な任務を果たしてもらいたいということを申し述べていたわけであります。
 実は、世間の方はこの三国人の発言にとらわれまして議論がそれで終始してしまったと。最終的には、いろんなこと、紆余曲折ありましたけれども、石原知事が、まことに遺憾である、今後使わないということをおっしゃったので、一応一件落着と考えていいかと。あの自信満々の、恐らく引っ込むことを知らないあの知事さんが遺憾であるという言葉を使ったことは、少なくとも相当な挫折感を味わっておるんだろうと。それは彼の反省の弁として受けとめていいわけでありまして、三国人論争はまず終わりとしてもいいかと思いますが、私は、その三国人発言の中に隠れていて、全然世間的に問題となっていない内容の方を取り上げてみたいと思うんです。
 実は、彼は大変な発言をしておるんですよ。一たん事あるときには、この日本に不法に入ってきたような不良外国人が集団で暴動を起こす、大規模な騒擾事件を起こす、これはもうとても警察の手には負えない、よって自衛隊が治安出動するしかないんだよということなのであります。
 日本に不法に入国してきた外国人、特に三国人と呼ばれる人たちがどれぐらいいるのか私わかりませんけれども、それが何か集団で万が一のときは暴れようということで一つのグループ、集団をつくりまして、それから武器も用意してこそこそと何か陰謀をたくらんでおる、さあ地震が来ないかと彼らが考えている。そんなことを今まで考えていた日本人は一人もいないんじゃないでしょうか。
 特に、不良外国人というのは、東京を中心とする首都圏と大阪を中心とする京阪神に大量に住んでいると、こう思われますけれども、既にして五年前に阪神大震災のときに何か問題が起きたかといえば、何も起きていないわけです。むしろ、極めて治安、秩序もよく保たれていたというわけでありますが、阪神地区に住む外国人は非常におとなしいけれども、東京地区に住む外国人はこれは危険でしようがない、すぐ暴れ出すんだというふうなことを石原さんは考えておられるのかどうか。
 しかも、こういう話が一小説家の空想の産物で言ったり書いたりしておることならだれも相手にしない、それはそれでいいんですけれども、東京都知事という限りなく重い立場の方が口から発した言葉なんですね。
 いかな石原さんでもいいかげんなことは言うわけはない。きちっと調べた上で、彼が調べるということは警視庁に照会したのでしょう、警視庁は彼の管轄下にあるわけですから。そして、警視庁が、いや知事大変です、万が一東京で大地震が起きたら、もう不良外国人たちが暴れ出して我々の手には負えません、自衛隊と今のうちから話をつけておいてくださいよと、それぐらいのことは警視庁が言いまして、それを踏まえて石原知事はああいう発言をしたと。その立場立場で物を言う人は皆それだけの責任があるわけですから、いや単なる思いつきだと、そんなことは許されるわけはないのであります。
 そこで、防衛庁長官にお伺いしたいんですけれども、警視庁がそれだけの危惧感を持って知事に資料を上げている、いや大変ですよ知事さんと言っているんだろうと思います。警視庁が調べているぐらいですから、防衛庁も責任を持って、いざというときには治安出動するわけですから、一体東京周辺の不良外国人はどれぐらいいるのか。韓国系の人、中国系の人、パキスタン系だとかイラン系だとか、あの人たちが危ないと、こう恐らく知事は思っておるんでしょうね。
 いずれにしろ、そういうことについても十分に調べ上げて、彼らはこんな武器も隠し持っている、いざとなったら警察の手には負えないから我々が出動せざるを得ないんだと、知事はなるほどいいタイミングで世の中に警告を発してくれたと、こう考えておられるのか。いやそんなことはない、あれはいいかげんな話なんだ、世間を驚かすまことにもって知事にふさわしくない発言なんだと、こういうふうに考えておられるのか、どちらでありましょうか。結論だけでも結構なんですけれども。


国務大臣瓦力君) 佐藤先生は御専門でいらっしゃる分野でございますので、大変私も緊張しながら答弁しなきゃなりませんが、石原都知事の発言につきましては、私の立場でコメントする、そういう立場にはないわけでございますが、先生今お話しのように、一般論として申し上げれば、公共の安全、秩序の維持につきましては警察機関の責務でございます。自衛隊は、警察機関のみでは治安を維持することができない場合に対応することとされておるわけでございまして、自衛隊防衛庁は、そのときの状況に応じて与えられた任務に適切に対応してまいりたいと考えておるわけでございます。
 大変この問題は各紙にも報道されていたわけでございますが、私もなるべく慎重な対応をとってまいりました。また、コメントする立場にはないわけでございますが、時として大変難しい問題を提起しておったわけでございますので、慎重に扱ってまいりたいと思っています。


○佐藤道夫君 基本的に第一歩から長官は間違っておられると思います。コメントする立場にないと、それは新聞記者やその他の人の言うことでありまして、長官は何しろ治安出動を命ずる立場にあるのです。そして、大震災、あすにでも起こるかもしれませんよ。この場合は知事は、もう警察の手に負えない、そういう事態が想定されるんだということを何か根拠があって言っていることは間違いない。ところが、それに対してコメントする立場にないと。
 求められたらどうするんですか、治安出動を求められたら。急に言われても困る、我々は何の準備もしていないんだ、それはそっちでやってくれ、警察が頑張っているから警察に頼んでくれと、そうとでもおっしゃるんですか。知事自体は、もうとてもそんな問題じゃないんだ、何が起こるかわからぬ、もう自衛隊しか頼りになるものはないんだという趣旨のことを言っておられるわけですから、それに対してやっぱり防衛庁防衛庁できちっと調査をして、警察の意見を聞くことも重要ですよ、警察から資料を提供して、知事にどんな材料を上げたんだと、我々の方にも回してほしいと言って警察と協議をした上で、なるほどそうか、これは大変だ、あすにでも大震災が起きたら自衛隊も出動せざるを得ないかもしらぬ、今のうちから訓練をしておこうと。これは当たり前のことでしょう、大臣として。
 大変申しわけないけれども、大変高給をはんでおられるようでありまするから、こんなことをコメントすらできないという、何か小学生みたいにしか思えないんですけれども、どうなんでしょうか。


国務大臣瓦力君) 今、佐藤先生からいろんな前提を置かれての話ですから、そういう前提が確たるものであれば、おのずから具体的な方向づけを御返事しなければなりませんが、一義的には私はそれは警察の問題であると、こう申し上げました。
 また、要請側に基づいて自衛隊とすればどう対処しなければならないかという問題が生じてくるわけでございまして、その時々の情報収集活動等につきましては、私どもも十分に意を使っておるわけでございます。よって、その時点で東京都知事からの要請があれば、その要請を勘案しながら、もちろん決断をしなければならないような環境が生ずるわけでございます。


○佐藤道夫君 大変のんびりしたお話だと思います。
 当事者である石原知事が、いや重大な問題なんだ、万が一大地震が起きたらもうどうなるかわからぬ状態なんだと、こういうことまで言っておられるわけでしょう。しかし、防衛庁長官、国の方では、何しろそれは警察の問題、知事の問題、要請があったらそのとき考えましょうと。
 率直に申し上げまして、この知事の発言についていいかげんだというふうに考えておられるのか、やっぱり暴動の危険、大規模な騒擾事犯の起きる可能性があると考えておられるのか、イエスかノーか、どちらですか。


国務大臣瓦力君) 先生御発言のような御意見まで触れて石原知事がお話しになっておられるという、そういうことではないんです。私はそう理解しています。


○佐藤道夫君 申しわけありませんけれども、石原知事に確認したんですか、あなたは口からいいかげんなことを言ったんでしょうと。あの関東大震災の御記憶、御記憶はないと思いますけれども、例を持ち出しますと、あれ地震が起きてから流言飛語が乱れ飛んだ。朝鮮人が暴れ回っておる、徒党を組んで民家に押し入って物を盗んだりしている、それから井戸に毒物を投げ入れたりしている、えらいことだという流言飛語が乱れ飛んで、住民はパニックに陥りまして、それぞれ地域ごとに自警団をつくって、そして通りがかりで不審な者を見つけると、呼びとめて尋問をする。言葉になまりがある、おかしいというと、おまえは朝鮮人だといって殺害したりした。それが関東大震災朝鮮人虐殺の問題として取り上げられていることであります。
 私の知り合いに、私は東北出身ですから、東北人はあのころ東京に出稼ぎに行っていた、大勢。そして関東大震災に遭遇しまして、ぶらぶら歩いていたら、おいこら待てといって呼びとめられた。東北のなまりというのは、あのころは東京では全然通じなかった。今のようにテレビ時代ではありませんからね。それで、何だおまえは朝鮮人かと言われてさんざん乱暴されたと、こういう話を我々子供のころに老人たちから聞いた記憶がありました。
 要するに、何かあるとパニックに陥る、これが大事なんですよね。あすにでも大震災が来たら、都民は真っ先に石原知事の発言を思い浮かべて、あっ朝鮮人が攻めてくるぞ、大変だと右往左往する。そういうことが実は大変問題だということを言って、きちっとやっぱり政府といたしましては、石原知事の発言は発言として、今まで調査した結果、警察、防衛庁、その他情報機関も調査した結果、我が国に滞在している、不良外国人と言っていいのかどうか知りませんけれども、その者たちが集まって、武器を用意したり、万一の場合に立ち上がろうということでクーデターの準備をしたりしている、そんな事実は全くありませんと、もし万が一でも何か災害が起きたら、京阪神の土地の人たちのように落ちついて事案に対処してくださいと、それが何よりですというぐらいのことを政府がきちっと国民に求めるべきじゃないですか。私はそう思うんですよ。
 このままにしておいたらやっぱり都民はいざというときにパニックに陥りますよ。何だ朝鮮人が来たのかということで、通りがかりの人を捕まえてまたいろんな乱暴をしたりする。そんなことを考えるのが政治家の務めじゃありませんか。目の前でコメントする立場にないとかそんなことは子供でも言えることなんで、万が一の場合を想定して、一体その場合にどうするか、これが政治の要諦だということを最後に申し上げて、長官の御意見を承りたいと思います、こんな大事なことですから。


国務大臣瓦力君) 佐藤委員からるる御意見をちょうだいいたしました。
 もちろん、防衛庁自衛隊とすれば、国の安全、市民生活におきましても不安がないような秩序を維持するために警察と一体となって行動しなければならない事態も考えられるところでございますが、このたびの知事発言につきましては、より具体性を持った発言とは思っておりませんので、よってコメントは差し控えますと、こう申し上げてきておるところでございます。