『故郷はなぜ兵士を殺したか』

  • 一ノ瀬俊也、『故郷はなぜ兵士を殺したか』、角川選書

著者の過去の著作に比べると格段に挑発的な書名なのでちょっとびっくり。日露戦争以降の(ただし重点はアジア・太平洋戦争におかれている)銃後における軍事援護活動――出征兵士の家族への援護、戦死者家族への慰藉や援護、出征兵士への慰問、傷痍軍人への援護、戦死者の顕彰等々――が遺家族・留守家族を監視し、出征兵士に“名誉の戦死”を慫慂し、戦死者の死に意味付けをするという機能をいかに果たしたかを明らかにしようとすると同時に、そうした機能がほころびを見せる瞬間をも拾い上げようとする、社会史らしいアプローチ。日中戦争以降の、「大義」を明確にしがたい戦争において戦死への意味付けを強行しようとすると、結局は戦死それ自体に価値があるというロジックに行き着かざるを得ず、それゆえ「故郷」は出征兵士に戦死を要求することになる……とまとめると強引にすぎるだろうか。
全4章中の最後の1章は戦後の「郷土」の分析に当てられているが、牽強付会となるのを恐れず感想を述べるなら、本来謝罪*1すべきところで謝罪を回避したことが、幾重もの歪みを生み出しているのではないか、と。

*1:ここでは大義も勝算もない戦争に動員して死なせた自国の戦死傷者や戦災被害者に対するそれがとりあえずは問題である。