死霊の裸踊り

法華狼さんのところでの「通りすがりの人」a.k.a.「通りすがりに人」a.k.a.「取りすがりの人」について、これまでのまとめ。

ここのブログ主がソースとしたこの京大の永井って人、資料のタイトルだけで詳細を載せていないものがかなりあるんだけど、なぜ詳細を書かないかというと詳細書くと印象がガラっと変わってしまうからなんだよね。
というわけで、詳細を貼っておくね。
(中略)
と、このようにかなり厳密に慰安婦は軍により雇い主から「保護」されていました。
でも、これを書いてしまうと軍の性奴隷という印象から大きく変わってしまうから、長井さんは「タイトルだけ」しか書かなかったんだよね。
まあ、偉そうに書いているけど、この事実を見つけたのってエンコリの赤組の人だけど。
つまりだ、もう何年も前に間違いや印象操作を指摘されてる人なのだよ、この人は。
(http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20120114/1326640561#c1326798770)

どうです? 自信満々でしょ? ドヤ顔が目に浮かびますよね? しかし、しかしですよ、これを書いた当人が娼妓取締規則第1条「十八歳未満の者は娼妓たるを得ず」を知らず、もちろんのこと「婦人及児童ノ売買ニ関スル国際条約」も知らず、さらには民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす」も知らなかったとしたら、どうでしょう? 「中略」部分で得意げに開陳された「上海派遣軍慰安所酌婦契約条件」には「満十六才ヨリ三十才迄」という娼妓取締規則違反の(そして国際条約違反の疑いも極めて濃厚な)年齢条項と、事実上民法90条に反する前借金条項(五百円ヨリ千円迄)が含まれています。つまり彼は(そして「エンコリの赤組の人」なる人物は)旧軍が組織的に不法行為に関わっていたことを示す動かぬ証拠*1を持ち出してきて、それが「かなり厳密に慰安婦は軍により雇い主から「保護」されて」いた証拠だと主張したわけです。
人間誰しも間違いや勘違いはするものですが、それにしたって娼妓取締規則第1条や民法90条は旧軍「慰安所」問題を公娼制との関連において論じる場合(「公娼制と同じだ」と主張する場合においてさえ)押さえておくべきもっとも基本的な事柄でしょう。またこの2つは知識の問題であると同時に常識の問題でもあります。「満16歳より、という条件はおかしくないか?」「借金が前提の売買春契約って、人身売買じゃないのか?」とは、娼妓取締規則や民法についての知識がなくても頭に浮かんで当然の疑問であるはずです(それが浮かばなかったということは、「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)や「エンコリの赤組の人」の人権感覚の貧しさを示しています)。
本来であれば、これほど基本的な知識(&常識)を欠いたうえで上記のような偉そうなことを放言したのだと気づいた場合――彼は繰り返し繰り返し繰り返し……指摘されてもなお、そのことに気づくのにおよそ6日間、コメント数にして約300にもなるやりとりを要したわけで、これ自体がもう途方もないことです――には、赤面どころの話じゃないですよ。顔から遠赤外線出して恥じ入っても足りないくらいです。即刻かつての広言を謝罪のうえ撤回し、「勉強してから出直して参りますので、ついては適切な入門書などご紹介くださいますよう」と頭を下げるのがスジというものです。
ところが「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)はいまだに、誤った前提に基づく虚偽の問題を立て、偉そうに番号つきの質問に答えろ、などと要求しているわけです。というわけで、これまでに彼が積み上げてきた嘘と偽の前提、および彼が解消すべき問題番号つきで整理することにします。とはいえトータルで300を越えるコメントがあるわけですので、ここでは私がすでに指摘した(そして彼が無視している)ものに限ります。「論点を絞る」ためにあえて触れていない、あるいは深く追及していない問題もいろいろありますが、それらまで挙げているときりがありませんので。議論に参加された方はそれぞれご自分が指摘された同様の問題をご承知でしょうから、コメント欄にてご指摘いただければ随時エントリに追記させていただきます。

(1) では当然、「売春したくない」と主張すれば借金を免除してもらえた実例を提示できるよね?(2012/01/18 23:08)/ではその借金を売春以外の方法で当時の貧困層の女性が返す手だてを思いつきますか?(2012/01/19 15:42)

日時は当該コメントの投稿日時です(以下同じ)。これは前借金が事実上売春を強制する手段になっているという点に関わることです。金銭貸借契約と売春契約とが形式的に独立していても*2、売春以外に500〜1,000円の借金を返済する手段がないのであれば、「廃業の自由」など絵空事に過ぎません。

(2) 「これだけの差異」? 一体どれほどの「差異」があるというの?(2012/01/19 21:08)/そもそも「違う内容」であるということを示せてないだろ?(2012/01/20 20:39)

「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)は「なぜ調査報告と実際の決議にこれだけの差異があるのか、それは簡単な事で、議会で証言した李容洙や金君子の内容を取り入れているからだ」(2012/01/19 18:54)「そして、決議が違う内容になったのはイ・ヨンスらの証言を元にした体とも書いたはずだが、何故それを無視するのかな?」(2012/01/20 20:31)と主張しています。「これだけの差異」なるものが元「慰安婦」たちの証言を誹謗する根拠にもなっているわけです。しかし彼はこの「差異」なるものについてまったく説明できていません。これは次の (3)、(4) と関連しています。

(3) 米下院決議のどこに「強制連行」って書いてあるの?(2012/01/19 22:05 他多数)/えっ、それですませちゃうの?(2012/01/23 20:56)

「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)は「韓国もアメリカもその他の国も「軍による強制連行」以外は話題にしない」(2012/01/19 19:08)という偽の前提を持ち込み、そのうえで「なぜ調査報告と実際の決議にこれだけの差異があるのか」という問いを立ててみせたわけですが、彼は米下院決議が強制連行「しか」問題にしていないという主張を裏付ける根拠を提出できていないのみならず、米下院決議のどこに「強制連行」と書かれているかすら示すことができていません。そのことをもう繰り返し繰り返し繰り返し……問い続けてようやく出てきた言葉が「米下院での慰安婦決議に関してなのですが、たしかに具体的に軍による強制とは明記していませんね」「少々強引過ぎました」(2012/01/23 19:13)だけなのです。そもそも米下院決議に「強制連行」と書かれていないなら、イ・ヨンスさんらの証言のせいで「強制連行」云々という内容になったという主張も崩壊しますし、「韓国もアメリカもその他の国も「軍による強制連行」以外は話題にしない」という主張も崩壊するわけです。つまりは、彼の主張の大前提が崩れさったわけですが……。

(4) そもそもその「米軍の調査報告」のどこに「正規の」商行為だと書いてあるんだ?(2012/01/20 20:39)/米国議会調査局の報告書なり「Report No. 49: Japanese POW Interrogation on Prostitution.」なりのどこに「正規の商行為」と書いてるのか示せ、と言われているのにいまだに示していない。(2012/01/20 23:33)/お前は「契約」があればそれはすなわち「正規」のものだと言うのか? 民法90条をなんだと思っているのか?(2012/01/21 00:02)

彼は当初“米下院決議も慰安所制度を正規の商行為だと評価している”と主張し、その後米国議会調査局の報告書だ、いや "Report No. 49: Japanese POW Interrogation on Prostitution" だ、と主張を後退させました。しかしいまだに、米国議会調査局の報告書なり "Japanese POW Interrogation on Prostitution" なりのどこに「正規の」商行為であるという評価が書かれているのか、示していません。なお、当ブログの読者の方はよくご存知のように、"Japanese POW Interrogation on Prostitution" には仕事の内容を偽って「慰安婦」を募集していたことを示す聴取内容が含まれています。彼が民法90条について理解していなかったことは、冒頭で示した通りです。

(5) へえ、あんたの根拠は最高裁の判決でいいわけ? 間違いないね?(2012/01/19 21:43 他多数

彼は「ここで皆様が主張しているような前借金のこと、実は福島瑞穂らが東京地裁で行われた金学順裁判でも主張しています。/しかし、この裁判ではそれら主張を間接的推定であり事実確認できないという事で却下しております」と主張しました(2012/01/19 18:54)。しかしいまに至るも、それが地裁〜最高裁のどの判決であるかすら明示できず、その判決の詳細を明らかにすることもできていません。いちおう最高裁判決へのリンクをはっていますが、最高裁判決がそのような「事実」認定に踏み込むのは異例であり、もちろんこの裁判の最高裁判決に「間接的推定であり事実確認できない」といった箇所はありません。前借金による売春の強制が不法行為であることは「事実」問題ではなく法律問題であって、「間接的推定」云々というのは実に腑に落ちません。一体原告が何を主張しそれに対して裁判所がどのような判断を下したのかがわからなければ反論のしようがありません。

(6) 両証言にはこれっぽっちも矛盾はない(2012/01/22 21:32)/矛盾する記述が存在するのではなく、単に同じ記述が存在しないというだけのことだから、矛盾は存在しない(2012/01/22 22:47)

彼はイ・ヨンス(李容洙)さんを「この人「札付き」なんだよ、むかしから証言がコロコロ変わるから」と誹謗し(2012/01/19 23:23)、彼女の一連の証言には「矛盾」があると主張しますが(同、類似例多数)、実のところただの一つも「矛盾」など示すことができていません。言うまでもなく「矛盾」とは「Pである」と「Pでない」とをともに主張することです。ある出来事について「Pである」と「Qである」とをともに主張したとしても、QがPの否定を含意する等の事情がない限り「矛盾」にはなりません。彼があげつらったいくつかの点のうち年齢については私の「2012/01/19 21:47」のコメント以降沈黙していますので、「矛盾」でないことを認めたものとみなします。「兵隊のような格好をした日本人」と「日本兵」とももちろん「矛盾」しません。「友達に呼ばれて家から出た」と「兵隊に家から連れ出された」も当然矛盾しません。だいたい、米下院では彼女は "I followed my friend until we met the same man who had tried to approach us on the riverbank" 等と証言しているのですから、「友達」の背後に「日本兵(風の男)」がいたという趣旨の証言であることは明白であるわけです。仮にこの男に言及しなかったとしても、もちろん「矛盾」にはなりません。その他の点についても同様です。イ・ヨンスさんが家を出た経緯を記述する方法は無数にあります。ある証言では「おばさんから働けと勧められ」とあり別の証言には「おばさんは働かなくていいと言ったが」などとあればそれは「矛盾」ですが、ある記述に含まれる下位記述が別の記述にはなかったからといって「矛盾」にはなりません。

(7) その安秉直名誉教授が「私たちが調査を終えた19人の証言は私たちが自信をもって世の中に送り出すものである」とうけあった 『証言 強制連行された朝鮮人慰安婦たち』にイ・ヨンスさんの証言が含まれていることも当然知ってるよな?(2012/01/22 22:47)/また嘘をついたね。君は「ソウル大名誉教授が客観的証拠はないと言った」と言ったのではなく、「証言に整合性が取れない」と言った、と主張したのよ。(2012/01/23 20:56)

彼はイ・ヨンスさんの証言について「ソウル大学の安秉直らも証言に整合性が取れないと問題としている」(2012/01/19 23:23)、「矛盾だらけで整合性が無いといわれ」(2012/01/22 21:47)と主張しました。しかし私が、イ・ヨンスさんの証言は他ならぬ安秉直名誉教授が「私たちが自信をもって世の中に送り出すものである」とした19例の中に含まれていると指摘したところ、彼は「後日談として「証言はあるが客観的証拠は無い」としており」(2012/01/23 19:13)という稚拙な逃げを打ちました。言うまでもなく、証言それ自体のうちに「矛盾」が含まれるかどうかと、ある証言を裏付ける「客観的証拠」があるかどうかとは別の問題です。次の (8) は (6)、(7) と密接に関わるものです。

(8) 以上の事実は「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)が「札付き」の嘘つき野郎であることを意味するのか、それともたかだが5年前の事柄について人間が記憶違いをしたり証言がぶれたりしても不思議なことではない、ということを意味するのか。さて、どっち?(2012/01/21 15:39)/たった5年前の米下院決議について虚偽の「証言」をした人間が、一体どの面下げて半世紀前の出来事に関する元慰安婦の証言をあげつらう資格があるのか?(2012/01/22 21:32)

「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)はたった5年前の米下院決議の、彼自身が極めて重要だと考えているはずの論点に関して虚偽の証言をし(「正規の商行為とされていたはず」)、それを指摘されると「いや調査局資料だ」「いや "Report No. 49: Japanese POW Interrogation on Prostitution" だ」と「証言」がぶれまくっています。また約20年前に提訴がなされわずか8年前に最高裁で確定判決が出たばかりの訴訟について、裁判所が「それら主張を間接的推定であり事実確認できないという事で却下」したと主張したものの、いまに至るもそれが地裁〜最高裁のどこの判決であるかすら明らかにすることができていないことも上で見た通りです(さらに「最高裁判決」へのリンクは彼が虚偽を述べたものとして解することができます)。彼は半世紀前の出来事についての複数の証言に細部にいたるまでの一致を要求しているわけですが、その基準に照らすなら「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)は「札付き」の嘘つきということになります。「いや、私は嘘つきではない」と主張するなら、イ・ヨンスさんの証言をあげつらう根拠は雲散霧消することになります。

(9) "recruit" = "enlist in the armed forces" なんだから、 "recruit" 単独で「徴兵する」って意味になるんだよ。英和辞典にも載ってるだろうが(2012/01/21 09:45)

これはまあ瑣末と言えば瑣末なんですが、彼のインチキ論法の典型ですので。彼は "Report No. 49: Japanese POW Interrogation on Prostitution" の中に "RECRUITING" というセクションがあることをもって、「慰安婦」の募集が自由意志によるものだと主張しました! 「あのね、強要したり騙したりしたならそもそもタイトルに「RECRUITING」なんて書くわけ無いでしょうに。/解らないのなら、recruitで和訳してみれば良い」(2012/01/21 00:07)と、またしてもドヤ顔です。しかしふつうに英和辞典をひけば "recruit" という動詞には「(新兵の)募集」「召集」といった語義があり、それ自体としては任意であるという含意も強制であるという含意ももちません(当該国の徴兵制度次第)。これを指摘されると彼は「いつからリクルートが軍事用語になったんだ?」(2012/01/21 00:45)などと噴飯ものの弁解をしています。もちろん、これは語学的に見ても反論になっていないだけでなく、法華狼さんが指摘した、子どもの人身売買について "Recruitment" という語が使われている事例(2012/01/21 00:45)への反論にはとうていなり得ません。

(10) はい、また嘘をついたね。(2012/01/23 21:47)

彼は23日の晩になってもまだ「今現在具体的に出ている根拠は「内務省の交付した年齢制限規則に違反している」だけなわけだ」(2012/01/23 21:43)などと厚かましいことを言っています。「前借金」に関するこちらの主張、および彼自身が持ち出した "Japanese POW Interrogation on Prostitution" の記述からうかがえる「慰安所」制度の不当性(仕事内容を偽った募集、インフレによる生活苦等)に関する他の方々の指摘は全部スルーしています。


彼が持ち込んでいる偽の前提はまだまだある、ということを改めて述べておきます。以上、ちゃんと番号を振ったのだから今度こそ答えてもらいたいものです。

*1:もし彼が「この契約書は業者が軍に無断でつくったもので、軍は知らなかった」と主張するなら――そしてそれは形式的には成立する余地のある主張であるものの、当時の軍人たちが公娼制の実態を知らないウブ揃いとでもいうのでない限り、前借金によって娼妓をリクルートしていることを知らなかった、などということはおよそありそうにないことですし、この契約書は陸軍大臣宛に送られた文書に添付されていますので、少なくとも事後的には軍は承知していたはずです――、逆に彼は「軍により雇い主から「保護」されて」いた、とも主張できないわけです。この註、追記。

*2:しかしたとえ形式的にであれ「独立」しているのか? という疑問については同日のもう一つのエントリをご参照ください。コメント欄では「通りすがりの人」a.k.a.(以下略)が Dis った永井和・京大教授がご登場です。この註追記。