「戦争の狂気」だけでなく

去る8月15日、毎日新聞は九大生体解剖事件の関係者の証言を掲載しました。

記事中に次のような一節があります。

 「軍人と医者が残虐非道なことをしたが、これは事件の本質ではない」。東野さんは独自に調査中、気が付いた。「当時の心理状態は平和な時代には考えられないほど、おかしな状態だった」。戦争末期の空気と混乱は医者をも狂わせた。

かなり短くまとめられているため、証言者の言わんとすることがかなりわかりにくくなっています。ただ、記事のタイトルとあわせ、「戦争末期の空気と混乱は医者をも狂わせた」が記者の伝えようとするメッセージであることは明らかです。
生体解剖を目撃した証言者が長年の思索の果てにたどり着いた結論であるのならば、それには相応の敬意が払われねばなりませんが、他方で戦後世代が簡単に「戦争の狂気」と総括するのには問題があります。なぜか。

  • 渡辺延志、「731部隊 埋もれていた細菌戦の研究報告」、『世界』2012年5月号

この記事では、ある元軍医少佐の論文集――「陸軍軍医学校防疫研究報告」掲載の論文8点を合冊したもの――をとりあげているのですが、細菌戦に関するこの論文集は東京大学に学位請求論文として提出され、元軍医はなんと1949年1月、医学博士を授与されているからです。医学者たちの戦争犯罪は決して「戦争の狂気」だけで説明することはできない、ということの動かぬ証拠があるわけです。