ジェニファー・リンド氏の靖国論

NHK NEWS WEB の「歴代駐日米大使 歴史認識で議論」という記事で「安倍政権の外交政策をテーマにした、歴代の駐日アメリカ大使らによるシンポジウムが、3日、ワシントンで開かれ」たということを知って、主催した「日米の間の交流事業を行っている財団」がどれであるのかを調べていた――モーリーン&マイク・マンスフィールド財団だったのですが――ところ、"Beware the Tomb of the Known Soldier" と題するジェニファー・リンド氏のコラムを発見いたしました。リンド氏と言えば古森義久氏もご推薦のアメリカ人研究者ですから、ニューヨーク・タイムズが真っ赤に見える国士様でも耳を傾けてくれるのではないか、と期待して*1ご紹介します。
リンド氏は記念 commemoration という政治的行為が国内的にも国際的にも対立を生じさせるものだと指摘し、歴史を「ソフトフォーカスレンズ」で見ることがそうした対立を和らげうる、とします。例えば記念・追悼の対象となる犠牲者をより包括的なものとすることで、記念・追悼の対象を曖昧にすることができる。具体的にはカチンの森でのプーチンのスピーチ*2およびWWIIで戦死した戦略爆撃団の搭乗員を追悼するイギリスの記念碑*3の事例が指摘されています。
ここまでくれば、リンド氏の論旨はすでに明らかでしょう。靖国を「無名戦士の墓」ではなく「有名戦士の墓」としたA級戦犯合祀は、それ以前の靖国がある程度は備えていた曖昧さを終わらせてしまった、と*4。また、中曽根康弘と対比しつつ、「靖国参拝」が安倍内閣アジェンダ(9条廃棄に代表される)にとって障害となることを指摘しています。

*1:すいません、嘘です。でもまあ、左派にとってはこれといってみるべきところのある主張ではありませんので、むしろ日本の保守派向けのメッセージです。

*2:ポーランド人将校と並んでナチの犠牲者となった赤軍将兵に言及することで、ロシア側にも受け入れやすい謝罪となった、と。

*3:ドイツの異議をうけて、その記念碑は「1939年から45年の爆撃で命を失ったすべての国の犠牲者」をも追悼するものである、という一節が碑文につけ加えられた。

*4:ただしリンド氏は、靖国A級戦犯合祀以前から論争の対象であったことも指摘しています。