「証拠を出せ? 出したらちゃんと自分の目で見るんだろうな?」その7

前回言及した、「近代デジタルライブラリー」で公開されている資料を今回はご紹介します。引用にあたっては表記を現代風に改めてあります。

  • 廓清会婦人矯風会廃娼聯盟(編)、『国際聯盟に於ける婦女売買問題』、廓清会婦人矯風会廃娼聯盟、昭和5年

廃娼運動団体が人身売買に関する国際的な取り組みについてまとめたものです。

  • 中央法律研究会(編)、『芸娼妓廃業手続独案内』、東京訴訟代弁社、明治33年

表紙に「書式附」とあることからもわかるように、娼妓が廃業するにあたって必要な手続きを解説したマニュアル本です。文書見本の娼妓の仮名が「河合ソウ」となっているのはもちろん語呂合わせです。前借金で売春を強いられた女性がこうした本を(自分で)利用できたか? については後出の文献をご参照ください。

  • 大隈末広、『日本公娼制度論』、飇会出版部、昭10

これは廃娼論に対抗して「公娼制奴隷制ではない」と主張している文献なのですが、「自序」に「性問題は人類有志以来の先天的自然的要件にして衣食住の問題にも先行すべき重要なる問題なり」などと書いてあるのが、まるであずまんみたいだ、ということでご紹介してみました。

公娼制の(全国レベルでの)監督官庁たる内務省が「昭和5年6月県府係に照会を発して得たる資料によって編纂」した、当時の日本の売春事情についてのレポートです。人身売買による強制売春が「性奴隷制」であるという認識にとって、「自由廃業」の可否は重要なポイントであるわけですが、この点については261ページ以降に記述があります。内務省が編纂した文献ですから「従って其の弊害は余程少なくなって来た」(263ページ)などと自らの取締の成果を誇る記述もありますが、「法制の立前からいえば、金銭の消費貸借と娼妓稼業とは別個の問題ではあるものの事実上に於ては遺憾ながら必ずしも否らずといはざるを得ない」(261ページ)、「抱主は直接間接に、之〔=廃業〕を妨げようとして陋劣なる手段を弄する者がないでもない」(262ページ)、「いわゆる自由廃業、これは娼妓の独力でする場合は殆ど稀である」(263ページ)といった実態が渋々、という感じで記されています。娼妓の廃業に手を貸す運動家について、わざわざ「正義人道の為という真に敬虔な心を持って居るもののみとは限らない」などと Dis っている(263ページ)のも興味深いところです。