日本政府の主張を自明視する報道ばかりで大丈夫か

掲示板にてMKMさんから問題提起をいただいた件について。

「日韓請求権協定で解決済み」という日本政府の主張の正しさを自明視する報道は産経や読売にとどまらずマスメディア全体を支配している感があります。
しかし「慰安婦」問題に関して政府による「補償」を求めているのはなにも韓国だけではありません。2007年のオランダ下院決議は「日本政府に現在、生存する元慰安婦に加えられた苦難に対して直接的、道徳的な金銭補償の形態を提供するという追加のジェスチャーを行うことを強力に要求するように求め」ており、同年のEU議会も「生存している全ての’慰安婦’制度の被害者及び死亡した被害者の家族に対する賠償を行うための効果的な行政機構を日本政府が設置すべきことを要請」しています。さらに08年の台湾立法院決議も「被害者の名誉を回復をするために、日本政府は必要な補償措置をとるべき」としています。これらの決議が日韓請求権協定の存在を知らずになされた、ということなどあり得ないのであって、「解決済み」という日本政府の主張は国際社会で全面的に認められているとは言い難いわけです*1
さらに「解決済み」という主張が正しいとしても、それは本来「補償する義務がない」ことを意味するだけなのですが、あたかも「補償することができない」かのようにミスリードされてはいないでしょうか? 日本の司法でも、元「慰安婦」らの損害賠償請求訴訟において、原告の請求を斥ける一方で立法ないし行政による救済が望まれると判決で付言された例があります。
このように、国内外からさらなる補償を行なうようにとの提言が出ている理由は、もちろんのこと、日韓請求権協定や日中共同声明による「解決」が、たとえ「解決」だとしても、実質的な正義にかなっていないと考える根拠があるからです。もちろん、なにが「実質的な正義」にかなう措置であるかについて二国間で合意することは容易ではありませんから、一般論としてなら「いったん迎えた決着は尊重すべきだ」ということは言えます。しかしそれをあらゆる場合に、実質的な正義に照らした検討すら省いて適用しうる原則であるかのように考えるのは誤りでしょう。

*1:各決議は http://wam-peace.org/ianfu-mondai/intl/ から引用。