鼎談「「マッカーサー証言」と戦後アカデミズムの退廃」

歴史修正主義にコミットしている学者のなかでも近現代史分野でのアカデミックな業績を残している数少ない例の一人が伊藤隆ですが、このひとは自分の業績に泥を塗る恐れのあるような“汚れ仕事”は慎重に避けているという印象があります。南京事件については否定派とも距離を置く一方、「慰安婦」問題については否認論のリーダーを西岡力とともに買って出ている秦郁彦とは対照的です。その伊藤隆渡部昇一小堀桂一郎と『正論』の2012年7月号で鼎談しているので図書館で複写してきました。東京都教委制作の教材『江戸から東京へ』に「マッカーサー議会証言」が掲載されたのを受けて行われた鼎談です。

ここでも伊藤隆は“進行役”的な発言が目立ち放言的な部分は残りの二名がもっぱら担っています。たとえば「どういう経緯でマッカーサーがこういう証言をしたのか、皆さん、そこが気になるところだと思います」と、「証言」の文脈という重要な論点を持ち出すのは伊藤なのですが、それを受けて長々としゃべるのは小堀、渡部の両名です。

しかし当然ながら、2人は「マッカーサー証言」の文脈の最も重要なところ、すなわちマッカーサーは中国に対する封じ込め政策を主張するために、日本に対する経済制裁を成功した政策として引き合いに出しているという点は無視していますし、伊藤隆もそれを追認しています。伊藤隆の著作がネットの修正主義者に引用されることは殆どないため私もあまりとりあげることはこれまでなかったのですが、彼が果たした役割も一度きちんと調べなければならないと改めて思いました。