2023年夏の「戦争番組」より

アジア・太平洋戦争関連の(「アジア・太平洋戦争」という表記を用いることは稀ですが)コンテンツがピークを迎える8月15日が過ぎました。まだ「ひと通り見ただけ」の番組も少なくありませんが、期待外れと期待以上の番組について簡単な感想をば。

放送日程から見て今年の目玉ではないにせよおそらくけっこうな予算を注ぎ込んだはずのNHKスペシャル「いのち眠る海〜最新調査で明かす太平洋戦争」は「期待外れ」組です。まあ正確には大して期待していなかったので「予想通り」ではあるのですが。

太平洋戦争中、海で失われた35万の命。最新技術で「海の死」の実相に迫る調査が進んでいる。マリアナ沖海戦で沈んだ航空機。海底に眠る残骸を分析すると、過酷な作戦の末に海に沈んだパイロットの最期が浮かび上がった。一方「海の墓場」とも呼ばれる旧トラック島では国の遺骨調査が始まった。NHK独自の調査で、助けを求めながら船とともに沈んだ兵士たちの姿も見えてきた。戦後78年、海底調査で明かす「戦争の真実」。

この番組の売りは「フォトグラメトリー」と称する技術によって海底に眠る戦争遺物を3D化してみせるところです。それによって撃墜された航空機や沈没した船の「最期」を再現してみせる、という点です。当該の戦死者の遺族にとってはなんらかの意味があるのかもしれませんが、一般の視聴者にとって戦争の理解が深まる趣向かというと、大いに疑問でした。見ていて「なにかに似ている」と思っていたのですが、あとで思いつきました。「白黒写真のAIによるカラー化」です。

ほぼ同時期にEテレで放送された「ハートネットTV #ろうなん 8月号 手話で語る ろう者と戦争ハートネットTV #ろうなん 8月号 手話で語る ろう者と戦争」は遥かに低予算ながら制作者の問題意識が光る番組でした。

「朝起きて、ごはんを食べた」。この短い言葉1つとっても、戦争を体験した方の手話には、日本語では表しきれないリアルな情景と記憶がある。12歳で沖縄戦を経験した、ろうの女性。10代で軍需工場へ動員され、空襲を目の当たりにした男性たち。戦禍を生きたろう者一人ひとりの特有の手話や表情、言葉の奥の思いを、那須映里さん・砂田アトムさんが受けとめ、後世に残していくための「手話語り」として実演する。

ろう者の戦争体験をとりあげた番組は過去にも放送されてきましたが、この番組は一部のシーンを除いて日本手話と字幕で番組が進行するので、ちょっとでも余所見をするとすぐ内容が分からなくなります。しょせん30分の疑似体験ではありますが、ろう者にとっての戦争体験を想像する最初の足がかりにはなる、そういう番組ではなかったかと思いました。