年末を迎えて

このブログの前身を iblog でつくったのが2004年なので今年で20年ということになります。もっとも2004年の末にスタートしたので実質的に20年となるのは来年の末ですが。

更新頻度もすっかり落ちて最近はなんとか「毎月更新する」というラインを守るのが精一杯ですが、続けられる限りは続けるつもりです。

 

過去に書いた記事の中で最近思い起こすことがあるのが、イスラエル軍による白燐弾の使用を擁護するネトウヨを批判した2009年ごろのことです。戦時国際法を「殺させないため」ではなく軍事組織の選択肢を広げるために解釈しようとする姿勢は南京事件否定論にも通じるものだと思いながら書いていました。いまSNSで展開されているイスラエル擁護論もまた、「便衣兵」をめぐる南京事件否定論者の主張を想起させます。

法は殺すため(殺すことを正当化するため)ではなく、殺させないためにある。この大原則を改めて主張しておきたいと思います。

『南京事件と新聞報道』

-上丸洋一『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』、朝日新聞出版、2023年

publications.asahi.com

元『朝日新聞記者』の上丸洋一氏が先月刊行したのがこの『南京事件と新聞報道』。いかにも元新聞記者らしく、当時の新聞報道をひろく調査することで南京事件にアプローチしようという試み。冒頭から鈴木明のいい加減さが指摘されていて引き込まれる。また折に触れて言及したいと思います。

ブックレット『日本の植民地支配』

-水野直樹・藤永壯・駒込武『日本の植民地支配 肯定・賛美論を検証する』、岩波ブックレット No.552、2001/2023

上記ツイートにもあるように、『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』がベストセラーになったのをきっかけに増刷されることになったブックレット。とりあげられている項目をみると刊行から20年以上たってもなお右派が同じことばかり繰り返していることがよくわかる。表面的には「軍艦島」などへの言及が増えるといった変化はあっても、認識の歪み方は変わっていない。

さて『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』については具体的項目についての検証もさることながら、「はじめに」の序論的な議論――歴史認識における〈事実〉〈解釈〉〈意見〉という3つの層に関する議論が多くの読者に強い印象を与えたようだ。

この『日本の植民地支配』についても「はじめに」で重要なメッセージが発せられている。

 肯定・賛美論が例外なく「歯切れのよい」論調であるのに対して、本書には「歯切れの悪い」内容が含まれているかもしれない。しかし、歴史的事実には多面的な性格があり、歴史の真実に忠実であろうとすれば、ある種の「歯切れの悪さ」を抱え込まざるを得ないということを私たちは大切にしたいと思う。(後略)

歴史修正主義を克服するためには、私たち読者の側にもこの「歯切れの悪さ」に耐えることが求められているのではないだろうか。

「“玉砕”の島 語られなかった真実」

「前編・テニアン島」「後編・サイパン島」の二部からなるドキュメンタリー。

www.nhk.jp

民間人の犠牲者を多数だした戦場が題材ということで「加害」に関する話題が出るとは期待していなかったのだが、サイパン島で妹を亡くした女性がチャモロ人のガイドに「ごめんなさいね」と頭を下げる。

「“玉砕”の島」

戦火に巻き込まれた先住民もまた多く命を落としたこと(ガイドの女性も遺族)をこの女性は忘れていなかったのだ。

この女性はサイパン島が日本人の「慰霊の島」になっていることにも批判的な目を向ける。ある現地青年から慰霊碑が林立する岬を「亡霊岬」と言われたことを引き合いに出し、「年季が来たら〔慰霊碑を〕除去すべきじゃないかなと思うの」とまで言う。

「他人の島ですよ ここ ねえ」

現地の人々の戦争体験を聞き取った書籍も紹介されていた。

『私たちは涙まで飲んだ』

タイトルの『私たちは涙まで飲んだ』は激しい渇きを体験したことを意味している。ディレクターの名前を記憶しておくことにした。

「中国人元『慰安婦』を支援する会」、活動終了

中国の日本軍性暴力被害者を長年支援してこられた映画監督・班忠義さんを中心とする「中国人元『慰安婦』を支援する会」が活動を終了したことを伝える記事が東京新聞に掲載されていました。

www.tokyo-np.co.jp

『ガイサンシーとその姉妹たち』の上映会でお目にかかった際の印象はいまも強く記憶に残っていますが、それももう16年前のことになるのですね。

あらためて班さんの志の高さに頭が下がる思いです。

今年の「9月18日」

今年の「9月18日」の翌朝、グーグルのニュース検索で「柳条湖事件」を検索した結果のスクリーンショットを撮りました。

柳条湖事件」ニュース検索結果

「7月7日」や「12月13日」と同様に、柳条湖事件そのものではなく中国の「式典」にしか関心がないことがよくわかります。

2023年夏の「戦争番組」より

アジア・太平洋戦争関連の(「アジア・太平洋戦争」という表記を用いることは稀ですが)コンテンツがピークを迎える8月15日が過ぎました。まだ「ひと通り見ただけ」の番組も少なくありませんが、期待外れと期待以上の番組について簡単な感想をば。

放送日程から見て今年の目玉ではないにせよおそらくけっこうな予算を注ぎ込んだはずのNHKスペシャル「いのち眠る海〜最新調査で明かす太平洋戦争」は「期待外れ」組です。まあ正確には大して期待していなかったので「予想通り」ではあるのですが。

太平洋戦争中、海で失われた35万の命。最新技術で「海の死」の実相に迫る調査が進んでいる。マリアナ沖海戦で沈んだ航空機。海底に眠る残骸を分析すると、過酷な作戦の末に海に沈んだパイロットの最期が浮かび上がった。一方「海の墓場」とも呼ばれる旧トラック島では国の遺骨調査が始まった。NHK独自の調査で、助けを求めながら船とともに沈んだ兵士たちの姿も見えてきた。戦後78年、海底調査で明かす「戦争の真実」。

この番組の売りは「フォトグラメトリー」と称する技術によって海底に眠る戦争遺物を3D化してみせるところです。それによって撃墜された航空機や沈没した船の「最期」を再現してみせる、という点です。当該の戦死者の遺族にとってはなんらかの意味があるのかもしれませんが、一般の視聴者にとって戦争の理解が深まる趣向かというと、大いに疑問でした。見ていて「なにかに似ている」と思っていたのですが、あとで思いつきました。「白黒写真のAIによるカラー化」です。

ほぼ同時期にEテレで放送された「ハートネットTV #ろうなん 8月号 手話で語る ろう者と戦争ハートネットTV #ろうなん 8月号 手話で語る ろう者と戦争」は遥かに低予算ながら制作者の問題意識が光る番組でした。

「朝起きて、ごはんを食べた」。この短い言葉1つとっても、戦争を体験した方の手話には、日本語では表しきれないリアルな情景と記憶がある。12歳で沖縄戦を経験した、ろうの女性。10代で軍需工場へ動員され、空襲を目の当たりにした男性たち。戦禍を生きたろう者一人ひとりの特有の手話や表情、言葉の奥の思いを、那須映里さん・砂田アトムさんが受けとめ、後世に残していくための「手話語り」として実演する。

ろう者の戦争体験をとりあげた番組は過去にも放送されてきましたが、この番組は一部のシーンを除いて日本手話と字幕で番組が進行するので、ちょっとでも余所見をするとすぐ内容が分からなくなります。しょせん30分の疑似体験ではありますが、ろう者にとっての戦争体験を想像する最初の足がかりにはなる、そういう番組ではなかったかと思いました。