プロパガンダ映画を「証明」に使ってしまう軍事評論家

航空自衛隊出身の軍事評論家、佐藤守氏のブログ、「軍事評論家=佐藤守のブログ日記」に「映画「南京:戦線後方記録映画」」なるエントリがアップされている。

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放映されたのは、昭和13年、東宝映画文化映画部が、南京陥落直後に現地で撮影したドキュメンタリーで、インターネットでその部分部分が流れていたのだが、約一時間に亘る全記録には、「南京大虐殺で30万人が殺された!」という中国政府の宣伝とは裏腹に、なんとも気抜けするぐらい穏やかで、平和な南京市内の状況が写し出されていた。勿論、中国軍が、日本軍が入場する前に、焦土作戦で民家などを焼き討ちにして逃亡した状況も良く分かる。
  南京城壁を攻撃するシーンは、今流行の<再現ドラマ>だったが、朴訥な兵隊さん達の動きが実に素人っぽい。有名な松井司令官などが場内に入場するシーンは、動画で見るのと写真で見るのは大違い、戦没者の慰霊祭も、実に厳粛でわが軍の規律厳正さが良く現れていた。
 占領後、部隊は直ちに追撃戦に入るから、続々と城門を出て戦地へ出動する。
場内警備で残ったのは、京都と奈良の連隊、約4500名、それに対する南京市民は20〜25万だという。勿論外人も同居している。こんな圧倒的な戦力不足の状況下で30万人もの大量虐殺をしたというのであれば、このようなシーンは絶対に撮影できなかったであろう。正月に爆竹を鳴らして遊ぶ中国人の子供達の表情からも、市内の治安が回復されたことが十分伺える。
 日本軍の占領統治が始まると、多数の中国人が「認可証明書」を受けるために行列するシーンも実に平和で、列に割り込もうとする“強引な”男達を、並んでいる中国人たちが入れまいと小競り合いするシーンなどはリアルでユーモラスであった。「南京大虐殺」が、中国側による虚構の「反日宣伝」であることが、また一つ証明された
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強調は引用者。う〜ん…。「<再現ドラマ>」が挿入されていることからも明白なように、これって中支那方面軍が全面協力したプロパガンダ映画ですよ。私自身は「プロパガンダ」即「虚偽」という立場をとりませんが、南京事件否定派の方々は「国民党(中共)のプロパガンダ」という理由で南京事件の存在を否定してたんじゃなかったっけ? 「南京事件証拠写真」なるものにあれだけ懐疑的な人々が「証拠映画」をホイホイ信じるとは…。そもそも南京攻略戦における最大の激戦は中国側の最精鋭部隊、教導総隊の抵抗と、城壁および城門での抵抗を排除するために行なわれていて、城内では本格的な戦闘は行なわれてません。映画が撮影されたのは中国軍の抵抗が終わったあとなのだから、日本軍さえ暴れなければそれなりの広さをもつ南京城内で「穏やか」な光景を撮影するのはべつに難しくない。それに、「30万人もの大量虐殺をした」とされている(それが事実かどうかは別として)のは「場内警備で残った」「京都と奈良の連隊、約4500名」だけじゃあありません。入場式の前に多数の捕虜・投降兵や市民が殺害されたとされているわけです。戦犯裁判での事実認定なり、日本の「虐殺=あった」派の研究成果の概略だけでも知っていればすぐに見抜くことのできる、初歩的なトリック。航空自衛隊の大先輩である奥宮正武氏は自分の目で、二日間で約500人の処刑を目撃した、と証言しているんですがねぇ…。


ちなみに、引用箇所よりあとの部分で、南京事件が虚構だとする「状況証拠」として言及されている文献だが、「南京大虐殺説は全く架空のデッチアゲだと私は信じて疑はない」としている『私の昭和史』にも、日本軍の横暴・軍紀紊乱ぶりは事実として記されているのは興味深い。私に言わせれば、「大虐殺はなかった」と主張する著者でさえ認めざるを得ない「横暴・軍紀紊乱」こそ「状況証拠」として理解すべきである。
もう一つの田中正明による文章はあちこちでコピペされているものだが、松井大将日記を改竄した実績を持つ人物の、他になんの裏づけもない回想を信じるというのなら、例えば慰安婦とされた女性たちの証言もすべて信じるのでなければ筋が通るまい。松井石根が強姦を命令したはずはなかろうし、捕虜殺害を(明示的に)命じたと考える理由も現在のところなく、不作為責任を問われて死刑になったのであるから、蒋介石がその点について遺憾の意を表したということならばまだあり得るだろうが。


なお、佐藤守氏は映画『南京の真実(仮題)』の「賛同者」に名を連ねている。また、過去に佐藤氏が南京事件について主張したことに関しては、青狐さんの以下のエントリを参照されたい。
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050713
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050714
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050716
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050722
コメント欄には懐かしい潜水…じゃなかった野良猫氏の名前も見える。