空疎なレッテル、「反米」

今日も古森義久氏からお題をちょうだいします。「小沢一郎氏の恐るべき変節ぶりーーー米国との安保協力について小沢氏はかつて何を主張したか。」
なんというか、仮にも全国紙の論説委員がここまで底の浅い文章を書くというのはすごいですね。以下、具体的に見てみましょう。

ところが小沢氏はこの国際的な対テロ闘争を「米国の戦争」と呼び、米国が主導であるがゆえに反対だと表明しています。明らかな反米の姿勢です。

まず第一に、アメリカの個別の政策に反対したら「明らかな反米」になるというのがもうネトウヨクオリティ。しかも小沢氏の(ないし民主党の)主張の要約としても、これが小論文の答案なら不合格まちがいなしの稚拙さです。報道からうかがえる小沢氏の主張は次の通り(強調はいずれも引用者)。
The Nishinippon Web Word Box 「アフガンでの対テロ作戦」

 アフガニスタンで展開中の対テロ作戦は大きく2つに分かれる。  対テロ作戦は2001年10月、米英を中心とする「不朽の自由作戦」(OEF)から始まった。米中枢同時テロの首謀組織とされるアルカイダと、支援するタリバン政権打倒のため米英が空爆を開始。カルザイ新政権誕生後も、タリバン勢力掃討のため、現在も約20カ国がパキスタン国境の山岳地帯で激しい戦闘を続けている。  日本が参加する海上阻止活動は、このOEFの一環。テロリストの武器や資金源となる麻薬の流通を監視するため、現在7カ国が不審船舶への立ち入り検査などを継続している。  OEFと並ぶもう1つの作戦が、国連安保理決議1386号に基づき同年12月に設置された「国際治安支援部隊」(ISAF)によるアフガン政府支援。北大西洋条約機構NATO)が主導し、37カ国が参加。活動範囲はアフガニスタン全土に及んでいる。民主党の小沢代表もISAFについては「国連決議でオーソライズ(承認)された活動」と理解を示している
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国際協力の意義と実績を盾に活動継続を目指す政府・与党。対する民主党小沢一郎代表は海自が参加した「海上阻止活動」自体が「国連の承認を得ていない」と反論。同党内では、非軍事面での国際貢献を探っていくべきだとの意見もある。
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 テロ特措法には「国連決議を踏まえ」との文言があるが、その決議自体に多国籍軍武力行使など具体的行動は記されていない。小沢代表は「アフガン戦争はブッシュ大統領が国際社会のコンセンサスを待たずに始めた」と批判、日本の姿勢を米国追従と指摘する。
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asahi.com 2007年08月30日 「自衛隊、「国連決議あれば派遣」 小沢氏、独首相に語る」

民主党の小沢代表は30日午前、都内のホテルでドイツのメルケル首相と会談し、次の臨時国会で焦点となるテロ対策特別措置法と関係するアフガニスタン情勢について議論した。小沢氏はドイツが参加している北大西洋条約機構NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)に言及し、「ISAFのようなものには、政権を取っていれば積極的に参加すべきだと思う」と述べた。
小沢氏は、テロ特措法に基づく海上自衛隊のインド洋での給油活動の延長には反対する一方、明確な国連決議に基づく活動に対しては、自衛隊を派遣する余地があるとの原則論を改めて示したものだ。民主党はテロ特措法について、米国などがアフガンで進める反政府勢力タリバーンの掃討作戦を後方支援する役割を持つ給油活動の代わりに民生支援を進める独自の対案をまとめる方針だ。
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で、産經新聞での報道でもこのあたりはきちんと伝えられているのです。
Sankei Web 2007/08/30 「小沢氏がテロ特措法延長に反対を表明、メルケル独首相に」

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 小沢氏は「全面的に賛成だ」と述べたが、インド洋への海上自衛隊の派遣については「軍隊の派遣は原則がはっきりしていなければいけない。国連がオーソライズしたものには積極的に関与すべきで、インド洋(への海自派遣)も、その観点から考えるべきだ。日本の最大の問題は、軍隊あるいは軍事力を海外に派遣する原則がないことだ」と述べ、反対の意向を示した。
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賛否はともかくとして、自衛隊派遣の可否の基準は“国連によりオーソライズされているかどうか”であり、どの国が「主導」しているかではない、という点で一貫しています。「米国が主導」であるからダメなのではなく、「アフガン戦争はブッシュ大統領が国際社会のコンセンサスを待たずに始めた」からダメなのだ、と。単なる日本語の問題としても、「米国の戦争」と「米国主導の戦争」とのあいだには大きな隔たりがあります。第二次世界大戦は連合国側から見れば「米国主導の戦争」でしたが、誰もそれを「米国の戦争」とは呼びません。古森流の発想によれば、アメリカ様がやることには、たとえそれがどんなことであれ、またどれほど国際社会が反対していることであれ、ひたすら追随していくのでなければ「反米」だ、ということになるとでもいうのでしょうか?


エントリの後半で古森氏は、1993年の『日本改造計画』からの引用によって、小沢氏が「親米」から「反米」へと変身した…と印象づけようとしているのですが、さて成功しているでしょうか(強調は引用者)。

「日本は国防の基本方針の第一項に国連中心主義をうたってはいるものの、実質的には日米安保体制のもとに独立や平和を守ってきた。自由、基本的人権の尊重といった価値観も日米は共有している。この点から考えても、平和維持のための貢献はアメリカと緊密に協調して行うべきである」

ふむ。日本政府のいう「国連中心主義」が「実質的」には「日米安保体制」のことだとする認識に基づいて、アメリカと「緊密に協調」せよ、とは主張されてますな。しかし…

アメリカを絶対に孤立主義に追い込んではならない。もしアメリカが国際社会における負担に嫌気がさして自国の目先の利益だけで動くようになり、その結果、国連が弱体化したとすれば、それはまさに日本外交の破綻である。アメリカに次いで世界第二位の経済大国である日本こそ、アメリカに対して協力できる能力がある、まさにそうすべき立場でもあるからだ。日本は国連を中心としたアメリカの平和維持活動に積極的に協力しなければならない」

国連なんてほっとけ、なんてことは言われてませんなぁ。たとえアメリカの行動に正当性がなくても(そしてOEFについては正当性がない、というのが現在の小沢氏の主張であるわけですが)とことんついていけ、なんてことも主張されていません。確かに力点の置き所が「アメリカとの協調」から「国連のオーソライゼーション」へと移っているとは言えるでしょうが、別に93年の段階でも「国連のオーソライゼーション」など無用、と主張しているわけじゃない。なにより、93年の時点では、アメリカがありもしない大量破壊兵器や、ありもしないアルカイーダとのコネクションを理由に戦争を始める、などとは想像していなかったでしょうからね(トンキン湾事件以上に露骨なでっちあげです)。この程度の力点の変化は事態の変化にともなう当然の対応でしょう。「アメリカに一切文句を云わないのが親米、ちょっとでも文句言ったら反米」と言わんばかりの、読んでいる方が恥ずかしくなるような二分法を共有する人間にのみ、古森氏のこのエントリは説得力のあるものに映るのでしょうね。