「捏造写真」と捏造されてきた写真に新証拠

9月14日の朝日新聞朝刊、「写真が語る戦争 読者所蔵写真」コーナーは「謎 ひとつ解けた」と題して、読者の男性から寄せられた1枚の写真を紹介している。男性の父親は日中戦争中占領地でのタクシー会社経営を打診され、陥落直後の南京を視察。男性が最初にこの写真をみたのは1939年か40年ころ、「路上に折り重なった死体などの写真5〜6枚」とともにで、父親は「自分が埋められる穴を掘っているんや」と説明した、という。
朝日新聞からこの写真を見せられた秦郁彦氏のコメントが紹介されているのだが、氏はその写真に写っている何人かの人物に注目する。というのも、否定派が「合成写真」であるなどとして否定論の根拠の一つにしている写真、「日寇暴行実録」に収録された写真(ピッポさんによる写真検証サイトでNo.010とされているもの)と同じ人物とみられるからだ。「近接した時間に同じ場面を別々の角度から撮影したと言え、一方を『複数の写真の合成』とする主張は成り立たなくなった」、としている。写真を提供した男性も写真が撮影された事情などは聞いておらず、秦氏は「中国側が演技している場面を複数の角度からとった写真だという可能性までは、排除できない」としつつ、「この時期の日本軍は内陸部へ退却する国民党軍を追撃する立場で、国民党側がこれだけの数の日本軍の軍服や帽子を入手するの極めて困難だろう」と、その可能性の蓋然性は極めて低いことを指摘している。記事ではさらに日本カメラ博物館運営委員の白山眞理氏に検証を依頼、「複数の写真を1枚に合成したことを示す明らかな特徴は見られない」とのコメントを得ている。


14日の紙面ではこの写真の他に、長崎県壱岐に墜落したB29の残骸の写真、ノモンハン事件当時、防疫給水指導本部(長:石井四郎軍医大佐)の設けた給水所の写真、アンリ・ディアマン・ベルジェ監督のドキュメンタリー『カミカゼ』(61年)の日本語版制作に使用した試写フィルムと見られる5巻の映画フィルム、が紹介されている。一般家庭にもまだまだ第二次大戦に関わる資料が眠っていて、戦史の書き換えを迫るようなことは滅多にないにせよ、従来の戦史を補強したり戦場や銃後の具体的な姿を知る手がかりになることは十分あり得るのだ、と思わされる。