“左翼が南京大虐殺について語るのが我慢ならん”という人こそが率先してインチキをどうにかしたらどうか?

昨年末に再登場した一知半解氏は「左翼」が「百人斬り」について語るのが気に入らないんだそうである。だったら、否定派がばらまいているインチキをそういうひとが率先して批判し、言論市場から淘汰してくれればいいのに。そうすれば左派が南京事件や「百人斬り」について語る機会も減るというものだ。そもそも『世界』やいまはなき『論座』と『諸君!』や『正論』を比較してみれば、もともと左派論壇が南京事件をとりあげる機会など非常に限られていることははっきりしているわけだが。
ところが、現実にはその一知半解氏のような人びとが、インチキの再生産に一役買っているわけである。

ここで一知半解氏は井沢元彦の『逆説の日本史8』から長文の引用を行なっている。念のため書店で確認してきたが、タイポその他は別として少なくとも大意としては原文通りの引用であった。ここで問題にするのは次の部分。

では、死件処理について何の準備もなく、偶発的に「数十万人」を虐殺した軍隊が、ただの一体も腐らせずに処理するなどということが可能だろうか?


常識と論理で考えれば、わかる話である。
俗に言う「南京大虐殺」の検証にはこういう視点が不可欠のはずなのに、これがほとんどといっていいほど行なわれていない。

幾重にも重ねられた嘘と詐術だ。まず第一に、大虐殺が起きたのが冬であったという条件にもかかわらず、「ただの一体も腐らせずに処理するなどということ」は実際問題できなかったのだ。当時の日記や後の回想の中に遺体の臭いについて言及しているものがあることからそれがわかる。だから「ただの一体も腐らせずに処理するなどということが可能だろうか?」などという問い自体がまずは不当だ。第二に、仮に「数十万人」ではなく秦郁彦説の4万人を採用したとして、「ただの一体も腐らせずに処理するなどということが可能」だろうか? ここには「三十万人大虐殺」だけがあたかも問題であるかのような詐術と、実のところ「三十万人大虐殺」説への反論になってないものを反論に見せかける詐術とが重ねられている。第三に、南京市民を皆殺しにしたと主張しているものなどおらず、また日本軍将兵も(特に大量の死者が出た時期には)約7万人がいたのであって、「チンギス・ハーン」を引き合いに出すなど的外れもいいところだ。さらに「ほとんどといっていいほど行なわれていない」というのも嘘っぱちであって、埋葬活動に関する記録は敗戦後の戦犯裁判でも証拠となったし、研究者による研究においてもずっと参照されつづけてきた(記録の信憑性に関する吟味も含めて)。戦犯裁判では証拠として利用できなかった資料には、例えば次のようなものがある。

◇十二月十八日 晴
捕虜の仕末にて隊は精一杯なり、江岸に之を視察す


◇十二月十九日 晴
捕虜仕末の為出発延期、午前総出にて努力せしむ

山田支隊(歩兵第65連隊、山砲兵第19連隊第3大隊、騎兵第17大隊)の隊長、山田栴二少将の日記である。歩兵第65連隊所属の兵士の陣中日記にも18日の記述として「午後には連隊の捕虜二万五千近くの殺したものをかたづけた」といったものがある(いずれも引用にあたって現代仮名遣いに改めた)。「捕虜の仕末」「かたづけた」というのが遺体を揚子江に流すという方法によるものだった、ということも他の史料から分かっている*1。これらはすべて、井沢元彦がこの原稿を書いた1999年には明らかになっていたことである。にもかかわらず平然と「これがほとんどといっていいほど行なわれていない」などという嘘をつく人間がおり、その嘘を信じる人間がいるというのに、黙っていろと言うのだろうか?
ついでながら、これもずいぶんと御都合主義な「定義」ですな。

そこで私なりに、「虐殺」の定義を考えてみたのですが、私の場合は、次の条件でしょうか。

1)最初から殺害を前提に計画していたこと。


2)軍人・民間人・老人・女性・子供等問わず殺害していること。

この定義によれば「カチンの森の虐殺」は「虐殺」じゃないことになってしまいます。まあ、南京事件では現に軍人、民間人、老人、女性、子どもの全てが犠牲者になってはいますが。しかしだからといって軍人だけが被害者なら「虐殺ではない」なんてのは単なるジャイアニズムに過ぎません。


インチキといえばこれもひどい。

  • Sirokaze Report of Specific Asia 「詭弁の典型

反省の弁かと思ったら、違うんですよ(笑)

 さてさて、これを一読すればわかるが、論理的に矛盾をきたしている。
 新聞記事に掲載されていたのは「両少尉が軍で戦って百人斬りを行っていた」ということだ。「裁判で百人斬りは事実」として認定してしまっている点である。(※ 別解説)
 また「捕虜の据え置き斬り」についてであるが、これについて「捕虜殺害をしたことがある」についてだけは事実だ。


 apeman先生の脳内事実と論理構造を解りやすく羅列すると、


(1) 戦場において百人斬りを行ったのは記事どおり行ったのは事実である。
(2) 捕虜殺害は事実である
(3) だから百人斬りは事実なのであり、反証は難しいのである!


宇宙一のバカですか?

「宇宙一のバカ」にチャレンジする資格があるのが誰であるかは、自明であろう。

*1:ちなみに、山田支隊が1日半「精一杯」「総出」で「始末」しなければならなかったということから判断しても、小野賢二さんが発掘した陣中日記から推定される犠牲者数(2万人程度)にかなりの蓋然性があることが分かる。