元米兵捕虜団体への親書の件(追記あり)
「全米バターン・コレヒドール防衛兵の会」(以下ADBC)に対し藤崎駐米大使が昨年12月、今年2月の二度にわたって親書を送り、「バターン死の行進」に関して「謝罪」した、と日経新聞がひっそり報じていたことを碧猫さん経由で知ったのですが、情報が極めて限られているのでとりあげそびれておりました。
バターン死の行進、元米兵捕虜に公式謝罪 日本政府
第二次世界大戦中にフィリピンを占領した旧日本軍が捕虜を数日間歩かせ、多数が死亡したとされる「バターン死の行進」を巡り、日本政府が駐米大使を通じ、元米兵捕虜の団体に謝罪していたことが9日、分かった。行進の現場「バターン半島」に日本が言及して謝罪したのは初めて。同団体の会長は「これまで長かったが、公式な政府の謝罪が得られてうれしい」と歓迎している。
この団体は「全米バターン・コレヒドール防衛兵の会」で、会長はアリゾナ州立大名誉教授のレスター・テニーさん(88)。メンバーの高齢化で今月末に解散する。
(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20090510AT1G0802F09052009.html)
オンライン版にあるのは以上のごくごく簡潔な記事でしかありませんが、5月10日の日経新聞朝刊にはADBC会長レスター・テニー氏への写真つきインタビューを含むもっと詳しい記事が載っています。この記事では2月の親書において、謝罪が「注意深い考慮の結果であり、日本政府の立場を完全に反映している」とされていたことなどが伝えられています。この親書を受けたテニー会長の声明が "US-Japan Dialogue on POW" のサイトに掲載されていますが、これには次のような一節があります(強調は引用者によります)。
私は大使に、私たち捕虜が正義を得られるよう、彼の政府に3つの依頼をすることを支援して欲しいと、頼みました。それは (1)政府からの正式謝罪(2)戦時中の捕虜労働に謝罪をするよう企業に呼びかけること(3)和解プロジェクトに加えてもらうこと、です。
12月になり、日本大使は、私が何十年も待っていたニュースを届けてくれました。彼の手紙には、日本政府が 「フィリピンのバターン半島とコレヒドール島で悲劇的な体験をした人々も含めて、多くの人々に多大の損害と苦痛を与えたことに、心からのお詫びを申し上げます。」 と書いてありました。
この肯定的意思表示に続き、2月には、“全ての元捕虜”に謝罪するという閣議決定を受けたステートメントが、日本の国会議員に伝えられました。それは、捕虜を特定する、或いは日本帝国によって傷つけられた特別なグループを特定する、初めての公式謝罪でした。
私たち捕虜は、長い間求めてきたこの謝罪を受け入れます。そして今こそ全ての関係者がそれを聞き、受け入れるために、日本がこの謝罪を公けに発表するようお願いします。私の他の二つの依頼にも、間もなくよい返事が貰えると信じています。70年近い年月がかかりましたが、日本が捕虜を不当に取り扱ったと認めたことで、歴史的正義が達成され、日米関係がより満ち足りたものとなるのです。平和な同盟国としての未来こそ、私たちが最初から望んでいたことでした。
5月18日の毎日新聞夕刊には東郷和彦・元オランダ大使が「日本政府の米国人捕虜に対する謝罪に接して/癒される戦争の傷跡」と題するコラムを寄稿しており、その中で(ジャパン・タイムズ紙へのテニー氏の投稿として)やはり「二月には、謝罪が「すべての元戦争捕虜」に適用されるという閣議決定を受けた声明が国会議員に伝えられた」としています。
ところが日本国内では、この件についての報道はほとんどみあたりません。Googleニュースでは上記日経の記事のほかTBSの本日づけのニュースがヒットするだけです。「閣議決定を受けた声明が国会議員に伝えられ」るなどというのは実は日常的にあること(ニュースヴァリューのないこと)なのかどうか知りませんが、内閣府、外務省のサイトや連合国の元捕虜への謝罪・補償問題を度々とりあげている藤田幸久参議院議員(民主)のサイトにも「声明が国会議員に伝えられ」たという件についての情報はみあたらないようです。
この問題では日本政府が被害者の満足するような対応をしようとすれば右派からの反発が出ることが予想されるので「なるべくひっそりと」ということなのかもしれません。しかし日本政府が「謝罪」するということは日本の有権者ないし主権者たる国民が「謝罪」するということでもあるのですから、一体どのような「親書」が送られたのかを国民のほとんどが知り得ないというのは正常な事態とは思えません。大々的に宣伝しないまでも関心のある人間がちょっと手間をかければ知ることができるようにはしておくべきではないでしょうか。
追記:トラックバックを送っていただいたブログ「壊れる前に…」さんがこの件に関するアメリカの報道を紹介しておられます。