旧日本軍兵士による戦時性暴力の解釈

http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/1366558/
上記↑エントリについて id:y_arim から idコールを貰って、こう言われたんだけど……

GHQによる占領中、中途半端に「東アジアにおける共産化への防波堤」として西側に拾い上げられたことが、戦後にねじくれた意識を醸成したのではないかとは思っている。これはid:Apemanの参戦に期待すべきか……。

「参戦」ってのはコメント欄に、ってことかな? いちおう iza! のアカウントはとってもいるんだけど、なかなか構図がややこしいので(南京攻略戦参戦者にはなしを聞いたことがあって「南京事件は幻だったというつもりはまったくない」と言っているブログ主も「情報戦」脳だし)よく考えたうえでなければ……。ただ、『南京 引き裂かれた記憶』についての次のような記述についてはたまたま、近いうちにとりあげようと思っていたことと関連しているのでこれを機会に書いておくことにする。

若い女子学生を強姦したことについて「苦しいことも多かったが、いい思いもした」(セリフはうろ覚え)と懐かしむような顔で証言する旧日本軍兵士の表情も、へたな演出より強烈なインパクトを与えていた。

映画では他にも「わしらも(セックスに)飢(かつ)えとるんだから」「(妻帯者である、予備役・後備役からの)召集兵は“女を知っている”ので辛抱が効かず、現役兵よりたちが悪い」(いずれも大意)といった証言が登場する。現役兵より予備役・後備役から招集された兵士の方が軍紀の乱れがひどかったことは他ならぬ日本軍の高級将校などの証言もあって、事実その通りであったと言ってよいだろう。ここでは戦時性暴力が「性欲」によって説明されていることの方をとりあげたい。
「本館」のエントリの方もお読みいただいている方ならご承知のように、渡辺淳一曾野綾子の犠牲者非難発言を契機として「性暴力の原因は(男の)性欲」であるとする認識を前提とした「女は自衛しろ」論がネットの一部で話題となった。映画に登場する元兵士の証言も、また慰安所をつくった旧軍幹部の発想も、同じような認識に基づいているわけである。だが、性欲原因論は予備役・後備役の振る舞いの方が悪質であったことを説明するだろうか? もちろん、性暴力が「性」暴力である限り性欲がまるで無関係であるというつもりはない(ただし、「性欲」がそれこそ男の睾丸に内在する実体ではない、という留保をつけてのはなしだが)。しかし性欲であるとかセックスへの関心であれば、より若く性的な経験にも乏しい*1現役兵の方が旺盛であったとしてもおかしくない。また、岡村寧次が第6師団について述壊していたような、慰安婦を帯同して行軍していながら強姦が多発するといった現象も、性欲原因説では十分説明できない。やはり性暴力の一次的な動機は性的なものというより他者を支配し、自身の男性性を確認かつ誇示するという欲望であるという説明の方が、戦時性暴力についても現実をよりよく説明するように思われる。例えば(これまた映画のなかで証言されていたように)まずは分隊長が強姦してから部下が続く、といった(こういう類比はなんだがまるで犬の群れにおける食事の順番のような)序列意識との結びつき、近親相姦を強要してそれを見物するのを楽しもうとする行動など。予備役・後備役から招集された兵士の方が悪質だったという点については、性欲よりも「相対的剥奪」概念によってよりよく説明できるだろう。


関連エントリ
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20061107/p2
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20070830/p1
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20090422/p1
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081026/p1

*1:ただし、徴兵検査を機に買春をするといった慣行もあったようなのでまるっきりの童貞がたくさんいたとは限らないが。