戦争トラウマと家庭内暴力

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公認心理師信田さよ子さんへのインタビュー記事。当ブログではかねてから、戦後の日本社会が加害体験を「個人化」してきたことの問題点を指摘してきたが、PTSDについて専門的な知見を持つ信田氏でさえ2018年に中村江里氏の『戦争とトラウマ』を読むまでは「父たちの「戦争トラウマ」がDVや虐待の背景にあったという視点を持ち合わせていませんでした」というところに問題の根深さを感じる。

「さすが」と思わされたのは「(虐待、抑圧の)連鎖」という捉え方の問題点に注意を促しているところ。

 ただ、連鎖という言葉はすごい荒っぽい。「元兵士たちは加害者だが被害者でもある。だから彼らは可哀想なんだ」という言説につながりかねず、注意が必要ですね。そう言われてしまうと、殴られ続けた妻や子どもら家庭内の被害者たちはどうなっちゃんうんだと。

侵略戦争の被害者たちはどうなっちゃうんだ」という視点に明示的に言及されていないのは残念なところですが。

記事を読んで新たに浮かんだ疑問もあります。

 多くの世代の女性たちのカウンセリングをしてきました。その中で気づいたことがあるんです。95年当時に40歳前後だった世代の女性たちが受けた虐待経験が、他の世代と比べて際立ってすさまじかったんです。

「95年当時に40歳前後」ということは「団塊の世代」より後、戦後10年ほどの時期に生まれた世代(いわゆる「新人類」世代の先頭あたり)ということで、物心ついた時期には敗戦から15年くらいはたっていたことになる。より年長の世代はカウンセリングを受けるという発想がなかっただけなのかもしれないが、戦争体験に由来する傷が家庭内暴力というかたちで現れるようになるためには時間がかかったのだとすると、それはなぜなのだろうか。たとえば“日本がより豊かになり戦場とのギャップがあらわになる”ことで暴力が苛烈さを増した、ということだろうか。

従軍体験者の多くは「戦争トラウマ」に関する知見の恩恵に浴することなく亡くなっていった。幸い、従軍体験者の子ども世代はまだ多くが存命だ。

 「暴力的だった父は、戦争によってトラウマを負っていたんだ」というような気づきは、加害者像をつくることです。家族が回復するためには、とても大事なことです。

「戦争だから仕方ない」と諦めるためではなく、「再び戦争を起こしてはいけない」という決意のためにも、戦争がなにをもたらすのかを理解することは重要だろう。