『第百一師団長日誌』
tomojiroさんからのご教示で『第百一師団長日誌 伊東政喜中将の日中戦争』(古川隆久ほか編、中央公論新社)が出版されていることを知り、購入。
手にとって最初に感慨を覚えたのは、三人の編者がみな1962年生まれということ。この種の仕事でも戦後派が中心になりつつあるのか、と。なお編者一人劉傑氏はおなじく中公から出ていた『石射猪太郎日記』の共編者でもあるのだが、本の体裁はちょうどこの石射日記と同じくらい。しかし内容的には随分と違いがあって、こちらは相当詳しい註がついている。第一章は伊東中将について、日中戦争勃発前後について、特設師団について、当時の世相について…とひたすら註のみからなり、第二章以降は(必要があれば)一日文の記載ごとに解説がついている。第11章は日記が途切れた「その後」についての解説である。
このような手法には賛否両論あるのかも知れないが、私はよい試みだと思う。解説部分もアカデミックな議論の対象にしうるのはもちろんだし、この本を手にとるような読者ならそこから起きた論争についてもフォローするであろう。以前から、研究者が「野砲」とか「山砲」とかいった用語を無造作に(つまり説明なしに)使って入門書を書いてきたことにはちと疑問をもっていたので。いろいろ読んでいるとそのうち「野砲と山砲の違い」を説明した文献に行き当たって「ああ、なるほど」と得心するのも一つの楽しみとはいえ、歩兵一個聯隊の定員が当時何人か、などといったことについて信頼性のあるデータを捜そうと思うと実はそう簡単には見つからないのである。というわけで、戦後派にも優しい編集となっている。