遺棄兵器被害訴訟、高裁逆転判決

東京新聞 Tokyo Web 2007年7月19日 朝刊 より。

旧日本軍毒ガス 中国人被害者ら逆転敗訴 東京高裁 国の放置、責任認めず


旧日本軍が中国に遺棄した毒ガス弾などにより戦後死傷した中国人の被害者や遺族が、日本政府が兵器の回収を怠ったために被害を受けたとして、国に一人あたり二千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が十八日、東京高裁であった。小林克巳裁判長は「日本側が中国に遺棄兵器に関する情報を提供したとしても、事故は防止できなかった」と述べ、国に約一億九千万円の賠償を命じた一審・東京地裁判決を取り消し、原告逆転敗訴の判決を言い渡した。原告側は上告する方針。
 訴えていたのは被害者や遺族計十三人。一九七四年と八二年、工事などの作業中に毒ガス弾から液体が流出、七人が重い後遺症となり、うち一人が死亡した。(…)
 判決は一審と同様、毒ガス兵器は日本軍が遺棄したと認定。その上で、中国大陸に広く分布しており、遺棄地点が特定されていないことなどを理由に、「日本が中国に調査や回収を申し入れていれば、事故防止の可能性は高まったかもしれないが、事故を高い確率で防止できたとはいえない」と述べ、日本政府の責任を否定した。
(…)

毒ガスのみならず通常砲弾の爆発事故も訴訟の対象となり、記事でもとりあげられているのだが、そちらについてはひとまず省略。
正確なところは最低限判決の要旨でも読まないことにはコメントできないけど、「事故防止の可能性は高まったかもしれない」と認めつつ「事故を高い確率で防止できたとはいえない」としている点、すなわち蓋然性の評価が焦点か。それから「遺棄地点が特定されていない」という点、正確にはどのように判断されているのか。いくら中国大陸が広いといっても毒ガスを配備していた部隊は特定可能であり、小隊や中隊のレベルで適当に捨てさせたのならともかく、「遺棄地点が特定されていない」というのは例によって敗戦後の文書焼却が一因か? この記事ではガスの種類が特定されていないのだが、訴訟の支援団体のHPにある吉見義明教授の証言によればびらん性ガスと思われる。中支那派遣軍化学部付き迫撃第4大隊第2中隊に所属していたある兵士は、次のように回想している。

 〔一九四四年〕八月に入ると中隊で保有する毒ガス弾の催涙クシャミの赤弾、身体が腐る糜爛性の黄弾を返納した。日本軍は中支那戦線で毒ガス弾を使用していたが、その報復に東京の爆撃に毒ガス弾が使われないように返納するのだという。
(…)
 ガス弾は大隊段列が〔第三〕師団の指定した部隊に返納した。
『中国行軍 徒歩6500キロ』

「大隊段列」とは輜重兵連隊などとは別に、砲兵大隊に所属し弾薬を運搬した部隊のこと。この場合、師団レベルで毒ガスを管理したことになる。これがどこまで一般的なケースかはわからないが、復員省が存在しているあいだに調査していれば「どのような処分の仕方が一般的だったか」くらいは簡単にわかったはず。
ちなみに、中国に遺棄された毒ガスについては「敗戦後連合国に引き渡した、文書もある」というデマを信じている人がいるようなので、そういう人に遭遇したら下記URLなどを紹介してあげましょう。
http://shanxi.nekoyamada.com/archives/000192.html
http://shanxi.nekoyamada.com/archives/000255.html
もうひとつちなみに、毒ガスは遺棄されたのではなく引き渡されたのだ、という「スクープ」(笑)をものしたのは水間政憲という人物ですが…そう、映画『南京の真実』賛同者であり、慰安婦決議に関して米下院外交委員会にダメ押しの「抗議書」を出した「文化人・ジャーナリスト」の一人であります。