「期待権」についてとりいそぎ

いろいろと論じるべき点の多い問題なのだが、下記エントリを拝見したのでとりあえず一点だけ。
「玄倉川の岸辺」 靖国 YASUKUNI」と出演者の了承と「女性国際戦犯法廷」番組


NHKVAWW-NETの訴訟における高裁判決(VAWW-NET側勝訴)を支持したからといって、今回靖国神社の刀匠の肩を持たなければダブスタということにはならないし、その逆もまたなりたつ。というのも、高裁判決は取材過程に「対象者が期待を抱くのもやむを得ない特段の事情」があるかどうかが、取材対象の「期待」が法的に保護されるかどうかの基準としているからであり、単純に「できあがってみたら気に入らないので文句を言う権利」を認めているわけではないからだ。「期待権」(と呼ぶかどうかは別として)を一切認めない(ないし極力限定的にしか認めない)立場、ないし非常に広い範囲で認める立場に立つ者は、二つの事例において同じ判断を下すことが要求されるだろう(NHKの肩を持つなら李監督の肩を持て、VAWW-NETの肩を持つなら刀匠の肩を持て、と)が、李監督と刀匠の間での撮影前後のやりとりに関する情報が十分明らかになっていない現状で、単に形式的な議論のみで「ダブスタ」と断じることはできない。例えば件のNHKの番組の場合、放映直前に異例の手続きで再編集が行なわれたということが、この「特段の事情」の成立を裁判所が認めた一つの理由であると考えることができるが、そうした事情は(これまで知られている限り)『靖国』にはないわけである。もちろん、こうした具体的な事情を斟酌せずにどっちかの肩を持ってしまうと結果的にダブスタになってしまうおそれは大いにあるが。


追記:ブクマコメントより

2008年04月15日 kurokuragawa 社会, 左翼, 表現の自由 「特段の事情」ってよく分からない

よく分からないって言われてもよく分からない。