「押収阿片の処分に関する件」
昨日NHKで放映された「調査報告 日本軍と阿片」で紹介された資料の一部は「アジア歴史史料センター」でも閲覧することができる。例えばリファレンスコードC04120621600の「押収阿片の処分に関する件」(1938年10月)。当時の北支那方面軍司令官寺内寿一から陸相板垣征四郎あてに、第20師団が押収した阿片(番組では閻錫山軍から、と明らかにされていた)の処分について、(1)飛行場の整備などのための土地買収費として、中華民国臨時政府に渡したい、(2)阿片の現物を渡すと弊害があるので関東軍を通して満州国政府に阿片を売却し、その代金を渡すことにしたい(関東軍とは打ち合わせ済み)ので、よろしいか? という趣旨の問い合わせが行なわれた。これに対して陸軍次官(東條英機)から北支那方面軍参謀長(山下奉文)に対して、「主旨」には異存はないが直接土地取引と関係があるような方法は避けろ、といった指示がなされている。昨晩の番組でも当時の関係者が述懐していたが、まるでフロント企業とのやりとりである。むろんこの種の暗部を抱えているのは日本だけではない。しかし陸軍次官、軍司令官、軍参謀長といったポストにある人物がタッチしているのが特徴的であるとは言えないだろうか。この点で慰安所制度にも通じるものがあるのではないか、と思う。将兵の買春を黙認することは旧日本軍に限らず多くの軍隊で見られることであるが、他方で米軍初め旧連合国軍は軍が組織として売買春に関わっているかのような体裁はなるべく避けようとしたことがうかがえる。田中利幸氏が指摘するように、「本音」レベルでは米軍にも日本軍と大して変わらない意識があったにせよ、その本音をどれだけ「建前」がコントロールするかという点で無視できない違いがあるのではないか、と。