『海軍反省会』、読みはじめる

昨年NHKの番組で題材となった(http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20090809/p2)「海軍反省会」のうち第1回から第10回までを文字起こしして刊行された『[証言録]海軍反省会』(戸高一成*1編、PHP)を読みはじめた。「反省会」は131回以上行なわれたと推定され*2そのほとんどについて録音テープが残っているとのこと。残りの部分についても文字起こし作業は続ける予定だが、ひとまず当事者たちも重視していたテーマが話し合われた最初の10回分を刊行した、と編者は説明している。


まだ第2回目分にさしかかった程度だが、以前にとりあげた話題と関連することが出てきたので。
戦艦陸奥の爆沈事件に関連して、「日本の主力艦は太平洋戦争までは、戦争で沈んだものより、爆沈の方が多い」という大江志乃夫氏の指摘を紹介したことがある。海軍の人事・教育を話題とした第2回反省会で野元為輝・元少将(海兵44)は次のように発言している。

(……)最後に一つ、下士官兵のことですが、私の調べた所では、軍艦の弾薬庫の爆発事件が日本は一番多い。それは大部分、下士官兵の問題。はっきりしないが疑わしい。下士官兵の指導ということが、相当、どこかに落ち度がある。それはね、レイテ当時のこと、私が霞ヶ浦に居る時に、もう戦局が悪くなる時に、格納庫の火災が起こった。これもどうも、あいつがやったんだという兵曹がいる。非常に貴重な艦船兵器を、なんか感情によって、やっつけちまっている率が、非常に多い事は海軍の下士官兵のみならず、それは一般的にもう少し、日本人について考えておく必要がある、重要なポイントではないかと私は思うんでございます。
(57ページ)

ここだけ取り出すと元幕僚が下士官兵だけを悪く言っているようだが、この直前には将校の人事の問題点が語られており、また他の発言者からも「日本の海兵出の士官は、一般的にいえば勉強しなかったと思う」といった発言があったり、旧敵国からの評価も下士官兵に対しては高いが将校は低い、といった認識を踏まえての発言であるので。念のため。
下士官兵は優秀だが将校は……”といった趣旨の評価は、ノモンハン事件ソ連軍の司令官であったジューコフ将軍が日本陸軍について語ったとされているのがよく知られている。これは敵の視点からは実態に即した評価であっても、「下士官兵の指導ということが、相当、どこかに落ち度がある」という野元少将の指摘とは矛盾しないのではないか。合理性を欠いた作戦指導の下で“勇敢に”戦う下士官兵をつくりあげるその仕組みが、別の場面では弊害を露呈させていた、と考えるべきなのだろう。


それともう一つ。先日、家族にガンプラを捨てられたと誤解して自宅に放火した男の裁判が報道されていたが、他人からみれば「なんでそんなことで?」と思うような理由で、その理由に見合わない(ように他人には見える)重大事を引き起こしてしまうという事件は、なにも現代に特有のものではない、ということ。

*1:「高」は異字体の方。

*2:記録が残っている最後の回である第131回における発言中に、次回に言及したものがあるので。