デマ注意報

先日、アパグループ第4回「真の近現代史観」懸賞論文の受賞作決定をとりあげた際、「優秀賞」受賞作の「日本は負けてない」(サー中松義郎博士)が“昭和天皇が原爆開発を止めさせた”というネタを含んでいることをご紹介しました。

原爆研究については陸軍が東京帝大の仁科博士と理研に開発を依頼した「二号研究」(海軍は京都帝大と「F研究」)として行い濃縮ウランは海軍が潜水艦でドイツから運ぶ手配がされ、出来た原爆の第一弾をハワイに落とす作戦を杉山参謀総長は陛下に上奏したが、陛下は「原爆という非道なものは使うべきでない。 特にハワイには日本人が多いので却下する。」となり杉山参謀総長は解任され、東條首相が参謀総長を兼務することになった経過がある。
(http://www.apa.co.jp/book_ronbun/vol4/yushu2011japan.html)

同様なはなしがウィキペディアの「杉山元」の項目にまで書き込まれているのは驚くにはあたりませんが、flurry さんのツイートでこのネタを著書に書いている(らしい)研究者がいることに気がつきました。

ここで話題にされている『核と刀』という本の内容紹介に次のような一文があります。

軍部への核兵器開発中止命令や玉音放送にみる昭和天皇の人類的平和主義。
(http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4944219938.html)

そして著者は……そう、第4回の最優秀賞受賞者である高田純センセーです! ネットで調べた限りでは、この「開発中止命令」なるものの起源は、戦争中海軍の嘱託として原爆開発に関わっていたある人物が杉山元から聞かされたはなし、とされているようです。『杉山メモ』や『昭和天皇独白録』など、もしそういう「命令」が本当にあったのであれば記録されていておかしくない資料に書かれていない、ということを指摘すれば反駁には十分でしょう。特に後者は東京裁判対策として作成されたものですから、そんな好都合な事実があったのだとすれば引き合いに出されないはずがないからです。
しかし原発の運転、あるいは開発を続けたい勢力がこの伝説を利用しようとすることは考えられます。今後さらに一般化するのかどうか、注意を払っておく必要がありそうです。