書評『日本軍の治安戦』
笠原十九司さんの『日中戦争全史』上下巻が増刷を重ねているそうで、主要メディアがほとんど「日中戦争勃発八十年」という事実にライトを当てないなか、数少ない良い知らせだと思います。
さて、立ち回り先の図書館に所蔵されていないためなかなか参照する機会のない軍事史学会の学会誌『軍事史学』の2013年9月号に『日本軍の治安戦――日中戦争の実相』(岩波書店)の書評が掲載されているのを知ったので、複写を取り寄せてみました。掲載されてから4年も経ってますが、書評自体も刊行から3年たってのものですので、まあご容赦を。
『軍事史学』の寄稿者は保守派が中心で、評者の河野仁氏も防衛大学校の教員ということで、いわゆる「三光作戦」をとりあげた本書をどのように評するか……というところに関心があったのですが、予想(というか予断)よりずっとフェアな書評でした。何点か懐疑的・ないし否定的なコメントも見受けられますが、歴史修正主義者によくある難癖のようなものではなく、賛否はともかくとしてたしかにそう評する余地はあろう、と私にも思えるものでした。とりわけ、結び近くで次のように書かれているのが印象的でした。
(……)最も困難な課題である人的被害者数の正確な推定については、非常に悲観的にならざるを得ない。しかしながら、『不都合な真実」についての「否認」からは何も生まれてこないのも事実であろう。(……)
ウェブ上で公表されている経歴によれば、評者は防衛大や自衛隊、防衛相出身者ではなく、一般の大学院で研究者としての教育を受けたうえで防衛大に赴任したようです。また、山西省に駐屯していた第37師団の関係者とともに現地を訪れた際に、「部隊史や回想録にはまず書き残されることはないであろうような「加害体験」について、重い口を開く人もいた」という体験もしたとも記しています。