旧軍が抱えた根本的矛盾

本館で書いたこのエントリとの関連で。
旧日本軍の最大の弱みは突き詰めれば経済力、技術力の不足だった。海軍の艦艇が「小さな船体に重武装を載せた、トップヘビー」なものだったことはよく指摘されるが(「第四艦隊事件」などがその現われ)、江口圭一は当時の日本という国家自体がトップペビーだったのだ、と指摘している。当時の日本経済は農業と軽工業に支えられていたわけで、軍の近代化には工業化の推進が不可欠だった。
ところが、軍は農村こそが優良な兵士の供給源だと認識していた。都市化や高等教育の普及といった(工業化の前提になるはずの)要因が、軍紀面では不安定要因であると認識していたわけである。
軍隊に入って戦争に行って殺したり殺されたりする…というのはたいていの人間にとって「やりたくないこと」である。やりたくないことを人にやらせる方法にはいくつかあって、1)高い報酬を約束する、2)やりたくなくてもやらなきゃならないことを納得させる、3)無理矢理やらせる、が代表的なところだろう。もちろん、いっけんしたところ1)や2)のように見えて実態は3)ということもあるが(経済的に困窮している人間を金で釣ったり、洗脳まがいのイデオロギー教育をおこなう場合)。日本軍の場合、大正デモクラシー期に軍紀の拠り所を3)中心から2)中心に移行すべきだという意見も実はあった。工業力の増進が軍の近代化に不可欠だとしたら、本来その道しかなかったはずだ(ただその場合、理由のはっきりしない戦争には動員しにくくなる、という“副作用”もあるけれど)。「だまってどんな命令でも聞く人間がたくさん欲しい」という要求と、「高度な技術力に支えられた工業国になりたい」という要求とは折り合いが悪いのだ。あれ、なんか現代に繋がるはなしになってきたような…。