『南京事件』増補版


地元の図書館にはいっていたので借りてきました。「増補版あとがき」によれば旧版の各章には手を入れていないということなので、書き加えられた第九章、十章に目を通しただけですが。章タイトルが「南京事件論争史(上)(下)」となっており、同じ2007年の末に刊行された『南京事件論争史』(笠原十九司平凡社新書)との対比が誰しも気になるところ。263ページ以降の「一九六〇年代までは低調」という節は、笠原本では扱われていない時期なので参考になる。ただ、実際に読んでみると旧版の刊行以降に発表された文章がかなり利用されています。例えば『昭和史の謎を追う』(上巻、文春文庫)の第8章、「論争史から見た南京虐殺事件」(初出89年、文庫収録は99年)や、『現代史の争点』(文春文庫)に収録された文章など。というわけでそうした重複をのぞいて、目を引いたのは次の諸点(かつてに比べより『諸君!』『正論』的語法が目立つようになっている、といったところは省略)。

  • 「百人斬り」訴訟には言及されているのに、自分自身の研究成果(指環さんによる紹介はこちら)には触れていない。
  • 小野賢二氏らによる山田支隊将兵に対するヒアリングや陣中日記の発掘には言及があるのに、殺害した捕虜の推定値はそのまま。
  • 「大虐殺派」の成果として「守備軍の内訳から推算していく新手法を取り入れたのは評価してよい」、と。
  • 「ティンパーリーは国民党の手先」説をかなり買っている(さすがにより慎重な表現にはなっている)。